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蛍

「ん?・・・何か光ったな。」
外出の帰り、日の暮れた川縁。男の目は確かにそれを捕らえていた。
「え?」
一緒に居た娘の視線が、光を捕らえようと彷徨う。しかし、あたりには月のあかりと星あかり、そして水の音しかしない。
「違う違う、あっちの薮見てみろ。」
男が指差す方向。小さな光がかすかに灯り、一瞬浮遊して・・・また消えた。
「あの色・・・蛍ね。」
納得したような、きびきびとした声の中に少しだけ嬉しそうな色が混じる。男はふん、と軽く鼻をならした。
「もうそんな時期か。道理で蒸し暑くなってきたわけだ。」
一つ、また一つ。灯り・・・蛍が浮遊する。
「今からが活動時間って事かしら。なかなか風流ね。」
数を増し、舞う蛍を眺めながら娘が静かに言った。
「お前に風流なんてもんがわかるとはな。」
揶揄するように男が言う。娘は表情も変えず声音も変えずに切り返した。
「あなた達よりはわかってるわ。どんな人でもね。」
「けっ。一言多いんだよ。」
男はつまらなさ気にそっぽを向く。その先を、滑らかな軌跡を描いて蛍の光が飛んでいった。無駄がありそうで全く無いその動きは、純粋に美しいと思えなくも無いことはない。
・・・あの曲線の動き・・・何か応用できないもんか・・・
「・・・全く・・・本当に武道バカね。」
隣であきれたような娘の声。思わず振り向くと、娘は肩をすくめた。
「あなたがそんな真剣な顔するのは、武道の事考えてる時だけでしょう。」
まあ、そこがいいといえばいいのだけど。
後半は、ささやき声のような独り言のようなさりげなさだった。聞き逃しもしなかったが。
「ふん・・・ったく、口の減らない奴。」
おまけに毎度一言多い気がするし、早い話がいけすかないというか可愛くないというか。
ま、そこがいいんだろうな。
ふ、と息をついた。
蛍はまだ、辺りを舞うように飛んでいる。
「ま・・・綺麗だ。」
蛍も、その無駄の無い動きも。
「その言葉が出てきただけでも進歩ね。まあ、明日雨が降らなければいいけど。」
くすくす、と笑い混じりで、娘が言う。
「ああ、本当にな。」
ありったけの・・・とはいえなけなしの嫌味を込めてそう言う。とはいえ、こんなやり取りは日常茶飯事だった。
それきり、ちょっとした静けさが訪れる。あたりが蛍の光に包まれる。どうやらあちらは最高潮らしい。
「・・・綺麗。」
隣の娘が、誰にとも無く呟いた。
「やれやれ、暑くなりそうだ。」
男は空を仰ぐ。
視界に映る初夏の夜空は、まだ涼し気に世界を覆っていたのだった。



散歩ついでに蛍見に行ったら綺麗で。誰か適任者はいないかなと思ったら、さくっと出てきた短い話。名前、入れるの微妙に恥ずかしくて入れてないけど、ヴァルターさんとキリカさん、7,8年ほど前の一コマです。問題が表面化する前、て奴かなあ。
紅蓮の塔のあの会話だけでも、夫婦のような二人の関係見え隠れしてるように見えたのです。
お互いに「我ながら趣味悪い」て思いつつ、お互い大切にしてる感じがよいな、と。ただ、二人ともお互いの事は2番目以下くらいだと思う。そこがまたいいなあと(笑)
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