午前中、エステルたちはウォーミングアップを兼ねて、地下水路の手配魔獣を倒しに出かけた。
ここのモンスターは・・・石化成分入り燐分を撒き散らしてくるのだが・・・
「くぅっ・・・!!!」
アーツを発動させようとしていたオリビエから声が上がった。
「オリビエ、大丈夫!?」
慌てて振り返ると、既に銃を持つ右腕が変色しつつある。
「まずい・・・石化だ。」
回復クオーツ持ちのヨシュアが、オーブメントを握り締める。
しかし。
「うぉっ!・・・ひとまずこいつら片付けるぞ!」
オリビエに気を取られている間に、ジンのほうが苦しくなったらしい。
「判りました!」
「りょーかいっ!!」
ヨシュアとエステルは、武器を握り締めるとひとまずオリビエを置いてジンの元へ駆け出した。
戦闘がおわる。
どうにか魔獣を散らした。
「オリビ・・・え”・・・」
おちついて、オリビエのほうを向いたエステルが、声なき声を上げる。
視線の先には、何故かバラ持ってポーズつけてたたずむ石像。
声につられて同じものを見てしまったヨシュアとジンも、目を点にした。
「・・・・・・・・・・えーっと。」
「ほはー・・・・見上げた根性だな・・・・。」
大人物というか、余裕と言うか・・・ジンは相変わらずどこかエステル達とずれている。
「これだけ余裕あるなら、放置しててもいいんじゃ・・・
そのうち復活して追いかけてこないかな。」
絶妙なポーズでたたずむ石像に関わりたくないのだろう、エステルが目線をそらしながら言う。
「う・・いや・・・・この状態で攻撃喰らうと戦闘不能になるし、・・・ほっといても直らない。」
一応ツッコミを入れるヨシュア。
ただし、こちらも目線をそらし、石像にあまり関わりたくなさそうではあるのだが。
「でも、自力で直しそうな気しない?」
「・・・・・・・・・・・・・。」
一瞬、「自力で直すかもしれない」という想像が頭によぎったのだろう。ヨシュアが黙り込む。
「おい、オリビエの旦那。念のため聞くが、お前自力で石化解けたりしないよな?」
ジンが、軽く石像に声を掛けた。
半分は冗談のつもりだったはず・・・なのだが。
石像がはらはらと涙を零した。
もちろん、ポーズはそのままである。
「うっ・・・。」
さすがに、少々ジンが身を引く。
「・・・・・・・日曜学校の怪談とかでありそうだよね・・・。」
涙を流す像、というのは、古今東西どこにでもある怪談である。
「やめてよ!思い出すから!!」
思い出して背筋が寒くなったのか、エステルはヨシュアの袖を掴む。
「・・・とにかく、だ。放置しないで回復してやれ。」
額に手をやりつつ、ジンがため息をついた。
「判りました。」
ヨシュアがオーブメントを握ると、石像がなんだか嬉しそうにキラめく。
三人は、心を無にして錯覚だと思い込むことにした。
「キュリア。」
石化がとけて、オリビエが元に戻る。
「ふふふふふ・・・・ヨシュア君ありがとう・・・。お礼にこの僕が」
体が自由になるや否や、オリビエは両手を広げてヨシュアのほうに歩いてくる。
とりあえず、エステルはヨシュアとオリビエの間に身体と棍を滑り込ませた。
「それはやめなさい。」
少々殺気のこもる声でけん制した後、エステルは普通に疑問を口にした。
「所でオリビエ、なんであの非常事態にポーズ決めて固まってたの?」
オリビエが、良くぞ聞いてくれた・・・と言う風にキラめいた。
「ふっ・・・・漂泊の詩人にして不世出の天才演奏家のこの美しい僕としては、いついかなる時でも美しくあらねばならないのだよ・・・・。そう、それはこの僕に与えられた義務であり」
「もういい・・・頭が悪くなりそう。」
ポーズつきで熱弁を振るうのを、エステルはため息でさえぎった。
「あの、オリビエさん。なんでバラなんて持っていたんですか?」
ヨシュアも、先ほどから気になっていたらしい疑問を口にする。
「ふ・・・それはだね。この美しい僕の危機的状況において女神が花を降らせて下さったのさ・・・」
「・・・・・・・・・・・・。」
ヨシュアは、もはや何も言えずに黙り込んだ。
「しかし、たまげた根性だな。アレくらいの余力があるなら、石化だって阻止しそうなものだが・・・」
ジンは、鷹揚に笑って一人余裕である。
「ふっ・・・それはわからないさ。なんならジン、君もやってみるといい。」
「そうだな・・・気合でどこまで石化を防げるかやってみるのも面白いかもな。
ま、その前に攻撃を避けろって話なんだが。」
「まぁ、そういうことだね。ふっふっふ。」
成年二人が、変なところで分かり合っているのを、未成年二人は半分脱力しながら眺めていた。
武術大会3日目。
今日もエステルたちはウォーミングアップを兼ねて地下水路の手配魔獣を倒しに来ていた。
「うおぁっ!!」
ジンの元に、また石化燐分が舞い落ちる。
「ジンさん!?」
ヨシュアとエステルが振り返ると、ジンの肩が変質しつつあった。
「君達、敵はあと一匹だ!先に片付けるぞ!」
敵を睨んでいたオリビエが叫ぶ。
「りょーかいっ!!」
棍を構えてエステルは、魔獣に向かっていく。
「うおおおおおおおおおおっ!!!」
抵抗するかのようなジンの吼え声が地下水路に響いた。
戦闘終了後に残ったものは、魔獣の残骸と、なかなかのセピス。
そして・・・・気合の入ったマッチョポーズでたたずむ巨大な石像。
いい感じに筋肉が隆起して、肉体美な感じである。
その上心なしかマッチョ特有のニカっとした微笑を浮かべているような気がしたが・・・気のせいだと思い込む。
「なかなかいい顔をしているねえ。」
「そういう問題じゃないでしょ・・・。」
オリビエが感心したようにつぶやくのを、エステルは冷たく一蹴してヨシュアに向き直る。
「ヨシュア、回復。」
「りょーかい。・・・キュリア。」
光に包まれ、ジンは石像から元に戻る。
「ふぅ・・・すまなかったな。必死で抵抗したんだが、やっぱりダメだったか。」
苦笑いしながら、ジンはヨシュアに礼をいった。
「さすがに難しいみたいですね。」
ヨシュアも苦笑いを返しつつ、オーブメントをしまう。
「ジン。」
と、オリビエがにこにこ笑いながらジンに声を掛けた。
「おう?」
「ふっ・・・なかなかいいポーズで固まっていたね・・・」
心なしかキラめいているのを、あえて見なかったことにする準遊撃士二人。
しかし。
「あぁ・・・気合入れたからな。」
続くジンの言葉に、二人は危うく噴出しかけた。
「(気合!?そんな、ジンさんまでオリビエみたいに)」
「(そ・・・そんなことは無いと思うけど・・・)」
こそこそと叫ぶと、オリビエが興味を抱いたのか、耳をこちらに向けてくる。
「おや、君達何をこそこそと話しているのかい?僕にも教えてくれないかなぁ?」
「いや!こっちの話だから!!」
「大した事じゃないですから、気にしないで下さい。」
エステルとヨシュアは、慌てて取り繕うことになったのだった。

この一件で、準遊撃士二人の中に、「ジンもわからない奴」との認識が生まれたかどうかは定かではない。
しかし、ジンに対する二人の認識が少しだけ変わったのは、多分事実である。
拍手地雷から引っ張ってきました。
ギャグっぽくなっております。
イメージ崩されたらすみません、けど、書いた当人「これくらいありえるよな。」とか思ってます。
とりあえず、楽しみ方としては・・・文章力ないのにこんなことを言うのもなんですが、脳内でこの話にあることをビジュアル化してみてください。
実はオリビエさんに愛注ぐ余りこういうことになったのは秘密です。