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いっぱい抱きしめたい

作戦は、まるで魔法のようにうまく行っていた。
いや、魔法などではない。彼の下で働く兵士達、要塞内で兵器の開発に従事する研究者達、そして、それを支える者たち。皆の協力と努力でこそ成り立っていることだった。
一つ一つ、取り返されていく領土。このままいけば、あと少しで、この国にも平和が戻る。
そんなときだった。
「大佐殿、通信が入りました。ロレントからの一般通信ですが、繋ぎますか?」
「・・・ロレント?」
ロレントは彼の故郷である。もう優に2ヶ月以上帰っていないのだが、そこには愛する家族がいた。
軍の回線ではない。そして、この鉄火場への通信。場違いというか迷惑というか、なのだが。
「・・・繋いでくれ。」
「はっ、かしこまりました!」
地図と作戦案を片手に、いぶかしみながら通信機を持つ。
「もしもし、代わりました。カシウス・ブライトですが・・・」


そして・・・彼は妻を亡くした。



家に戻った彼を待っていたのは、寝台に冷たくなって横たわる妻と、その前にぼんやりと立っている幼い娘の姿だった。
「レナっ・・・!!!」
名前を呼ぶだけ無駄なのはわかっていた。
それでも、呼ばずにいられなかった。
ベッドのそばに跪いて物言わぬ妻のなきがらに触れると、ひんやりした感触が彼を迎えた。以前とは全然違う感触・・・それでもそれは愛する妻のものだった。
ただ、彼女の冷たい体はまるで自分の無力を責めているようだった。
「すまなかった・・・」
冷たい手を包んでも、彼女のぬくもりは帰って来ない。
守れなかった。一番守らなければならないものなのに。
挙句、死に目にすら立ち会えなかったことも、後悔を倍化させていた。
「おとーさん・・・」
ぼんやりとした声で呼ばれて、我に返る。
振り返ると、娘がぼんやりと立っていた。
その後ろには、エルガー夫妻が、目線を落として立っている。
「ああ・・・。
 エルガーさん、エステルの事まで世話をかけてすまなかった。」
「いいんだ、そんなことは。
 ・・・レナさんのことは、残念だった。わかる限りのことは、話す。」
「ありがとう。長くなるだろう、椅子のあるところに行くか。」
扉を指すと、エルガーは頷いた。
「わかった。・・・・ステラ、良いか?」
「ええ。」
エステルと、ステラを置いて部屋を出る。
「・・・エステルちゃん、あの部屋から出ようとしないんだ。」
エルガーがぽつりと言った。


話を終えて、エルガー夫妻を送り出す。
聞いた内容は、ただひたすらに・・・痛かった。
そのまま、足の向く方へ・・・妻のなきがらのある部屋に戻る。
夕暮れ時の薄暗い光と、ぼんやりとなきがらを見つめる娘と、物言わぬ妻が彼を出迎えた。

「エステル。」
「・・・?」
どこかうつろな表情で、エステルは彼を見上げる。
「もう遅い。部屋に戻らないか。」
エステルは、ベッドのシーツを掴んで首を振った。
「・・・おかーさんのところがいい。」
彼が出かける前は、快活に笑っていたものなのに、見る影も無い。
「おとーさんじゃ、ダメか?」
膝をついて、両手を差し出す。
「・・・・・・・・。」
エステルは、一瞬止まって、それから、彼の腕の中にすっぽりと納まった。
「ごめんな・・・・本当にすまなかった・・・」
彼は、そんな娘を抱き上げ、思い切り抱きしめた。
「おかーさん・・・・おとーさん・・・」
腕の中で、エステルが泣いた。
彼の目からも、涙がこぼれた。
涙する資格など無いのに、あふれてとまらなかった。


・・・・そして・・・

やがて、王国には平和が訪れる。
反抗作戦を立案した彼は、救国の英雄として多大な名誉を差し出された。
しかし、彼はそのすべてを断った。
自分には、そんな名誉を冠するほどの価値も資格も無い、と。
やがて彼は、軍も辞し、新しい道を歩み始める。


  家を空けてばかりだった
  寂しい思いもさせた
  でも、これからは
  死んでしまった君の分まで
  めいっぱい抱きしめよう
  これ以上寂しい思いはさせない
  きっと いい子に育てよう

「・・・だから、見ていてくれ」

棚の上、幸せだった時間を閉じ込めた写真。
彼はその写真にそう呟いた。

「おとーさん、おはよー。」
娘が階下に降りてきた。
新しい日々が、始まる。



捏造全開。でも、妄想ってほど妄想はしてないと思いたいな。
本当なら、もっと真面目に真剣に考えて書かなきゃいけない題材だと思うけど、時間をかけたからいいもんができるとも限らないし。
パパは本当はもっとカッコいいのかもしれない。もっとかっこ悪いのかもしれない。どうも掴めない。でも、あの英雄さんは、どうしようもなく人間なんだと思いたいなあと。
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