Falcom TOP

姫君の苦労

ここは、王立ジェニス学院講堂。
配役が本番一週間前に決まったというとんでもないスケジュールの中、にわか劇団員は毎日必死で稽古している。
今日も稽古。
明日も稽古。
その次も・・・本番まで。
エステルとヨシュアも、劇の・・・しかもメイン役を引き受けている関係上、舞台監督に激を入れられつつ頑張る毎日であった。


「時間ね・・・。よーっし、今日はここまで!!」
ジルの声と共に、講堂の中に安堵とも脱力感ともつかない空気が降りる。
「おーわったー・・・。」
舞台に腰掛けていたエステルは、その声と同時に騎士服のままひっくり返った。
手に持っていた台本も、傍に放り投げる。
「お疲れ様。・・・だけどエステル、だらしないよ。」
隣から、姫姿のヨシュアが呆れた・・・という視線を送ってきた。
「疲れてるのは判るけど。せめて着替えてからにしたら?」
呆れ交じりの声に、エステルはむくりと起き上がる。
「ちょっと位いいじゃない。
 しっかし、クローゼと殺陣やってる方がまだ楽ね・・・。
 台詞とか覚えるのってどうも苦手だわ。
 しかも、おしとやか〜で優しいはずのセシリア姫は厳しいし。」
美人のお姫様なヨシュアをみながら、深くため息をつく。
「劇中の姫と練習中の僕を一緒にしないでくれる?」
「その格好で言っても説得力ないわよ。
 『あぁ、麗しの白き姫よ。あなたと出会えた事を私は女神に感謝している・・・。
 あなたと、オスカーと出会えたあの路地裏を、私は一生忘れないだろう。』」
「『ユリウス・・・あの日の出会いは私も忘れる事など出来ません・・・
 そう、3人で幸せに過ごせていたあの日々は、そこから始まったのですから・・・。』
 ・・・ちなみに、『あなたと出会えた事』じゃなくて『あの日の偶然』。『一生忘れない』じゃなくて『生涯忘れる事はない』ね。」
最後の・・・ヨシュアの地声での一言に、エステルはがっくりと肩を落とした。
「はぁぁぁぁ・・・・。
 姫の格好してても、全っっ然可愛くないんだから・・・。」
「だーかーらー・・・姫と僕を一緒にしないでってば。
 大体、格好くらいで性格まで変わるわけないじゃないか。」
むっとした顔でヨシュアがぼやく。
「変わるわよ。」
「変わらないさ。
 だって、その論法なら、エステルがこの服着たらおしとやかになるって事だろ。」
そんなのありえない、とヨシュアは肩をすくめる。
その態度に、エステルも少々むっとした。
「なるんじゃないの?
 姫気分なら、少なくともこういうことはしないわね。」
例えば、舞台に無造作にひっくり返ってみたりとか。
「ヨシュアがおかしいのよ、それは。」
ぴしっと指を突きつけると、ヨシュアが顔をしかめた。
「ふーん・・・・?
 じゃぁ、着てみなよ?ぜーったい無理だから。」
その態度に、エステルも顔をしかめる。
「ええ、着てやろうじゃないのよ。
 服の威力ってのは恐ろしいんだからね!
 ヨシュアもこの服着てみなさいよ。きっと多少の事は許せる気になるから!!」
エステルが胸を張って立ち上がる。
「なんで僕まで着なきゃならないんだよ。」
呆れ顔のツッコミは、半分怒っているエステルには通じなかった。
「一度実感してみろって言ってるのよ!」
「それくらいで変わるようなことならとうに変わってるさ。」
「そんなこといって、逃げる気なの?」
はん、と肩をすくめるしぐさに、ヨシュアのほうもむっと来たらしい。
「・・・判った、着てやろうじゃないか。」
言いながらヨシュアも立ち上がって、二人は足音荒く更衣室に入って行ったのだった。


数分後。
舞台の上で、赤騎士と白き姫は火花を散らしあっていた。
ほたる様より「ごきげんよう、ユリウス。」
「ごきげんうるわしゅう、セシリア姫。
 しかし、姫君というものは、間違っても肩をいからせて歩いたりはしないはずですが?」
ヨシュアは芝居がかった口調で淡々と指摘する。
「ごきげんよう、ユリウス。
 あなたの方は、さっきより口が悪くなったようですけれど?」
言われて肩の力を抜きつつ・・・・白き姫には考えられないほどに険悪な表情でエステルも言い返す。
しばしの沈黙の下、また、見えない火花が散った。
「お言葉ですが姫。それはあなたが全く姫らしくない事をされているからではないでしょうか?」
「失礼ですわね。私は、ちゃんと姫らしくしてますわ。」
と。
何か入り口の方から笑い声らしきものが聞こえる。
エステルはひょいっと振り返って・・・入り口の方を向いたまま固まった。
「・・・・・・・・!?」
釣られてヨシュアも入り口の方を見て・・・そのまま硬直する。
「えーっと・・・・・。」
生徒会副会長の・・・ハンス。
彼の視線は舞台に釘付けだった。
・・・・当たり前なのだが。
「お前ら・・・何やって・・・。」
くすくすくす。
呆れようとしたのだろうが、その前に笑いが来てしまっている。
エステルの顔は一気に上気した。
「えと・・あのそのこれはっ!・・・い、色々事情があってその!!」
うまく言葉にならない。
そもそも、なんと説明したものか。
「あー・・・えーっと・・・諸般の事情って事で納得してくれないかな?」
ヨシュアも非常に気まずそうに額を押さえた。
「・・・諸般の事情って・・・そんなので納得できる奴なんて居ないと思うぞ。」
尚も笑いながら、ハンスは冷静に指摘した。
「それは・・・そうなんだけど。そうとしか言えないんだよなあ・・・。」
「えー・・・っと、ほら、乙女の秘密って奴で!コレでこの話おしまい!ね!?」
エステルのその一言に、ハンスの大爆笑が響いた。
ヨシュアはというと、真っ赤になったエステルの隣でめまいをこらえていたりする。
「わかった・・・もう聞かない。これ以上つついたら笑い死にしそうだ。」
「どういう意味よそれは!」
「・・・そういう意味だと思う・・・」
がっくりとヨシュアがツッコミを入れたが、・・・誰の耳にも入ることはなかった。


ひとしきり笑いこけて、ハンスもようやく息をついた。
「あー・・・笑った笑った。
 あのクールなヨシュアがこうもお茶目さんだとは思わなかったぞ。」
笑顔のハンスに、ヨシュアはまたため息をついた。
「・・・・だからコレには諸般の事情が・・・」
「そうよ、乙女の秘密って奴が」
「エステル、それは違」
「そうか。ヨシュアは乙女だったんだな。同室ながら今まで気づかなかったぞ。」
言って、ハンスがうんうん、と頷く。
「ハンス!!」
「そんなに怖い顔するなよ。
 それじゃあ、エステルの方が姫に見えるぞ。
 さ、姫。そっちの無駄に怖いユリウスは放っておいてこちらにいらっしゃいませんか?」
舞台の下から、舞台の上へ。ハンスはおどけて手を差し出す。
「そうですわね。謹んでお受けいたしますわ。」
エステルも静々と舞台を降りると・・・芝居がかってハンスの手を取る。
「ね、ハンス。今は私とヨシュアなら私のほうが姫に見えるわよね?」
「もちろんです、姫♪」
「その答えが聞けて嬉しいわ。」
にっこりと微笑むと、エステルは勝ち誇った表情で舞台上のヨシュアを振り返った。
「ほーらみなさい!私だってドレス着たときくらいは姫になれるもんなのよ!!
 どこの誰?絶対無理って言い切ったのは!!」
「その台詞が既に姫じゃないと思うんだけど。」
言いながらヨシュアも舞台から飛び降りる。
「お前、そのいい方はちょっとひどいぞ。
 折角こんなに可愛い姫なのにさ。」
なぁ、とハンスがエステルの方を見た。
「あ・・・あははは。そ・・・そう言われるとなんか照れちゃうわね。」
照れ笑いしながら顔に手をやる。
「そういうとこも可愛いよなぁ。」
くすくす笑っているハンスに、ヨシュアはため息をつく。
「ハンス。エステルをそんなに甘やかさないでよ。
 エステルが正しいって事になったら僕にとばっちりが来るんだから。」
「別に甘やかしては居ないぞ。思ったことを言っただけじゃないか。
 それに、とばっちりって何だよ?」
「それは・・・」
ヨシュアが一瞬固まる。
「ハンス、ヨシュアに言ってやってよ。
 姫ドレス着てる時位おしとやかで優しい姫らしくしろって。
 台詞あわせやるたびに、見た目と現実のギャップがきついんだけど。」
「・・・なるほど。うん、それは俺も思ってた。なぜ姫なのにあんなに手厳しいのかと。」
エステルの言葉に、ハンスはまた、うんうん、と頷いた。
「やっぱりそうよね!
 ほーらヨシュア。2対1よ?」
「ヨシュア。お前にはわからないのか?
 あの綺麗なセシリア姫に厳しい事言われるってのは、悲しいもんなんだぞ。」
「そうよそうよ。姫ってのはもっとおしとやかで優しくて・・・」
「折角俺好みの美人なのに。少しは夢を見させてくれよ・・・。」
「大体、ヨシュアってばロマンってものがわかってないのよ。」
二人から口々に言われて、ヨシュアのため息は益々深くなった。
「人事だと思って好き勝手いわないでよ・・・
 なんだよ、そのロマンとか夢とか言うのは。」
「あの美人でしとやかげな姫から、厳しい言葉ばかりが出てるのを見ると、現実を思い知らされるというかだな。」
「気合入れて口説き台詞喋ってるのに、直後に冷たくツッコミ入ると悲しいのよ。
 どうせ口説くなら、こう、おしとやかーで優しげーで可憐なお姫様を口説きたいの!」
ぐぐっと握りこぶしを固めて言う。
ヨシュアの周りの気温が少し下がった。
「エステルだって・・・その格好の割には、全っ然おしとやかでも優しくもないような気がするんだけど?
 本当のお姫様なら、人の嫌がることを強要したりはしないよね?
 誰だっけ、服を替えたら気分も変わるとかいってたのは?」
少しだけ浮かんだ微笑が怖い。
ハンスが一歩下がる。
しかし、エステルは意に介さずに一歩踏み出した。
「私だって、この服着てからは、跳んだり走ったりはしてないわ!
 それに、別に強要はしてないもん。優しくしてって言ってるだけで。」
「ほとんど強要じゃないか。」
「被害妄想ってやつじゃないの?」
また、場が冷える。
エステルは、はん、と肩をすくめた。
「悩んでるところ、倒れてるとこ、劇中だったらほんっとーに可憐なのに。
 『やめて、二人ともっ・・・!!』なんてさ」
芝居がかった口調で言いながら、かかとに重心を預け・・・
「っきゃああ!?」
そのままバランスを崩して横様に倒れてしまった。
「エステル!?」
慌ててヨシュアが助け起こす。
「っくぅっ・・・!!」
が、エステルはその手を振り払った。
「!おいおい、大丈夫か?」
ハンスも慌てて駆け寄る。
「うぅ・・・。・・・だいじょぶ。
 ヒール履いてたの・・・すっかり忘れてたわ・・・。」
苦笑いに失敗しながら、エステルは手を振った。
自力で・・・ゆっくりと身を起こす。足を刺激しないように。
「あんまり大丈夫そうじゃないね。足ひねったんじゃない?」
様子を見ながら、ヨシュアは冷静にエステルの背を支える。
「・・・・・多分。」
「げ、マジか・・・?」
ハンスがげんなりした声を上げた。
「んー。ま、それなりに大丈夫だから。心配しないで。
 ・・・ヨシュア、オーブメントない?」
ヨシュアが額を押さえる。
「こうなるなんて想像してなかったから・・・ごめん、寮にある。エステルは?」
「・・・私も寮・・・。」
一瞬の沈黙。
そして、ヨシュアがため息をついた。
「ハンス。悪いんだけど、寮に戻って僕のオーブメント取って来てくれないかな?この格好じゃ外に出られないし。
 えっと、リュックの一番上のポケットの中なんだけど。」
「りょーかいだ、大将。貸し一つな。」
「はいはい。」
「それと、お前ら待ってる間に着替えるくらいはしておけよ。」
「了解。」
ハンスは、そのまま踵を返して講堂から出て行く。
「まったくもう・・・調子にのるからこういう事になるんだ。」
「んなこといったって、起こったものは仕方ないじゃないの。」
エステルはぷい、っとそっぽを向いた。
「ま、自業自得だからいいけど。とりあえず、その靴脱げる?」
澄ました態度が非常に癇に障る。
「・・・・脱げるわよ。」
痛みに顔をしかめながら、どうにかこうにか靴を外す。
半分は意地だった事は言うまでもない。
それが判ったのか、ヨシュアはまたしても呆れた・・・という目になる。
しかし、彼はそれなりに冷静だった。
「じゃ、待ってる間に着替えておこう。ほら。肩貸すから。」
お互いにため息一つ。
「・・・はーぃ。ありがと。」
「・・・どーいたしまして。」
言いながら、ヨシュアは靴を片手に、エステルの腕の下に身体を滑り込ませる。
「よっと」
「くぅっ!」
体が引き上がると同時に、エステルは悲鳴を押し殺した。
「・・・・よっぽど変な転び方したみたいだね。歩けるの?」
「歩けるわよ!」
体重をヨシュアに預けながら言うが、どうにも説得力のない声である。
「こういうときに嘘は良くないよ。これで長引いたらどうするの。」
「・・・・・・・・。」
「正直に言って。どうなの?」
沈黙に、さらに畳み掛けるようにヨシュアが言う。
エステルはぐったりとため息をついて白状した。
「・・・足が床に着くだけでも・・・辛いかな。」
「やっぱり・・・。」
呆れたような視線が痛い。
「仕方ないな。運ぶからちょっとつかまって。」
ため息をまた一つ。ヨシュアが少し身を低くした。
「・・・・・ごめん。」
言われるままに首に手を回す。
「よっ・・・と。」
「わ、わわっ。」
膝の辺りをすくい上げられて、浮上する体。
バランスを崩しかけて、エステルは慌ててヨシュアの首にしがみついた。
「エステル。・・・苦しい。もうちょっと力緩めてくれない?」
「あ、ごめん。」
少し力を緩める。
「痛かったら言ってね。」
と、ヨシュアはゆっくりと歩き出した。


横抱きにされて運ばれてるというのに、妙な安定感。
・・・やっぱり男の子って奴なのかしらね。
妙な事が頭を過ぎる。
とはいえ、散々からかった挙句自爆してしまった都合上、非常に顔は合わせ辛い。
「・・・さすが・・・伊達に鍛えてないわね。」
そっぽを向いたまま、ほそ、っと呟く。
「・・・エステルだってやれば出来るんじゃないの?」
鍛えてる量はそんなに変わらないし・・・と、ヨシュアは平静に歩いていく。
「そーね。今度ヨシュアで試してみようかな。」
言った瞬間、抱く手がこわばったのがわかった。
「えっ・・・いや。・・・遠慮する。お・・・落とされたらイヤだし。」
「失礼ね。そんなことしないわよ。」
きっと睨みつける先には、微妙に焦った顔のヨシュア。
「何よ。そんなに怖いの?」
「・・・自分の胸に手を当てて考えてよ・・・。」
顔をつっとそらして首を振る。
「ほんっと失礼ね。」
「失礼はどっちだよ。
 ・・・ほら、ついた。足気をつけてね。」
ゆっくりと椅子の上に降ろされる。
「ありがと。」
「はいはい。着替えはこっちだよね。」
反対側の椅子に放ってあった服がエステルの傍に置かれる。
「うん、そう。ごめんね。」
「いーえ。じゃ、僕は向こうで着替えるから。」
「はーい。どうもありがとうございましたー。」
返事だけはいいんだから、という声が聞こえたような聞こえなかったような。
ヨシュアはくるりと舞台の反対側へ行ってしまった。


数分後。
「おーぃ。待たせたな。」
エステルの方の更衣室で二人が待っていると、ハンスと救急箱とオーブメントが更衣室に入ってきた。
「あ、ハンス。ありがとう、手間かけたね。」
オーブメントを受け取りながら、ヨシュアが礼を言う。
「いいってことさ。エステルは大丈夫か?」
「ま、どーにか。あ、救急箱も持ってきてくれたんだ。」
「おう。オーブメントじゃ限界があるからな。」
言いながら、ハンスは救急箱から湿布とテープを取り出す。
「さすが。気がきくわね。」
「任せとけって。」
ぐっと親指を立てる。
それに笑い返しながら、ヨシュアがオーブメントを握った。
「じゃ、エステル。いくよ。・・・・・ティア。」
小さな光がオーブメントからあふれ出して、エステルの身体を包む。
足を包んでいた痛みが、遠のいていった。
「ありがと。」
礼を言って、とりあえず足をペタペタ触って確かめる。
先ほどまでのきつい痛みは消え、今は少し鈍く痛むだけ。
これなら、明日には元通りになっていそうだった。
「痛みは引いた?」
「うん、かなり。」
たずねるヨシュアに頷いて微笑む。
「んじゃ、次はこっちだな。今日は大人しくしとけよ。
 決闘できないなんて事になったら、ジルがひっくりかえっちまう。」
言いながら、ハンスは湿布をエステルに渡す。
「わかってますって。今日は大人しくするわよ。」
生来怪我が多かったもので、さすがにもう慣れたものである。
足首を包むように湿布を張って、テーピングで固定。
「よっと。」
足を軽く動かして確認。
靴に足を入れても、そこまで痛まない事を確認すると、エステルはほっと息をついた。
「ふぅ・・・ごめんね、二人とも。」
「ま、こういうこともあるさ。面白いものも見れたしな。」
笑いながらハンス。
「コレに懲りて、今後人に無茶な事は言わないように。」
本日何回目かも判らないため息をつきながらも毅然としてヨシュア。
その様子に、エステルはげんなりした目線を向けた。
「・・・・ヨシュア・・・ほんっとに可愛くないわね・・・
 普通、『いいよ』って言ってくれるものなんじゃないの?」
「もう一度胸に手を当てて考えてみなよ。今回の件に関しては、僕が被害者だと思うんだけど。」
腰に手を当てて・・・ヨシュアはどうやら、コレばかりは譲る気がないらしい。
「セシリア姫が厳しすぎるのが悪いのよ。」
「稽古中の僕と劇中の姫を一緒にするなって何回言えば判るのさ?」
「あんまり厳しすぎてイメージぶっ壊れるって言ってるんだけど?」
「それは君の勝手だろ。」
また見えない火花が散る。
「おいおい。夫婦喧嘩は戻ってからにしろよ。」
そこに、呆れたようにハンスが割って入った。
「夫婦喧嘩って・・・・」
「な・・・なんで夫婦なのよ!?」
反射的に顔が赤くなる。
ヨシュアはというと、首を振って黙ってしまった。
「傍から見たら犬も食わないって奴だぞ。自覚ないのか?」
ハンスはそんな様子には頓着せずに笑いながら続けた。
「ヨシュア。さっき貸し一つといったな。」
「え?
 あぁ・・・確かに言ったね。まさか・・・」
言いながら、ヨシュアの表情が引きつる。
「今後。せめてドレスを着てる時位、夢を見させてくれ。
 それで貸しはチャラにしてやる。」
にやりと笑ったハンスに、天使の羽が見えた。
きっと、ヨシュアには悪魔の尻尾が見えているに違いない。
「ハンス!ナイスよ!!」
エステルは笑顔で手を打った。
「ふ。これで一件落着だろ?」
ニヤリとわらってハンスが親指を立てた。
エステルも、親指を立てかえす。
ヨシュアが額を押さえた。
「な・・・どーしてそうなるんだよっ・・・」
「貸しは貸し。約束は約束。
 コレくらいで済んで良かったと思えよな。それとも、逃げる気か?」
「・・・・・・・・・・。」
勝ち誇る言葉に、しばしの沈黙。
そして、ヨシュアは頭を軽く振って・・・一つ頷いた。
「ドレスを着てる時は夢を見させろ・・・ね。
 ・・・・・・わかった。借りは借りだから。」
「おぉ。」
エステルとハンスで拍手があがる。
「よし。それでこそ男だ。いや、姫か。」
「ちゃんと受けるなんて。さすがヨシュアね。」
「よ、大将!かっこいい!」
ヨシュアも、にっこりと微笑んだ。
「うん。好きに言ってくれて構わないよ。ただし、夢の内容には責任持たないからね。」
更衣室の空気は、その一言で一気に氷点下に下がったのだった。



それから・・・。
稽古現場では、今までとあまり変わらない光景が繰り広げられている。
少し違うのは、セシリア姫からの指導がさらにきつくなった事くらい。
しかし、それに文句を言おうとするものは・・・もはや一人として残っていなかったのだった。



一月ぶりくらいで書いたんですけど(苦笑)ずーっとネタはあったのに書けなかった一品。
今回、どうにかこうにか書きあがってくれたのですが・・・見てくれはともかく内容がちょっと。ヨシュアってこんな性格じゃなかったような気がするんだよなあ・・・。
書いてて楽しかったのは、黒の姫セシリアと、最後のヨシュア君の一言。黒いからこそヨシュアだと思ってます(笑)

さて、このイラストに素敵な挿絵が・・・!!てか、使ってよかったのか今でもわからないんですけど・・・
姫エステルと騎士ヨシュア。や・・・やっぱり綺麗・・・
しかし、折角の美しいイラスト美しい服も、険悪な表情では今ひとつ色気に欠けることがわかりました(涙)
Falcom TOP