取れたて野菜のサラダ。
玉葱をいためたスープ。
ミルクたっぷりのパン。
メインディッシュは、一口チキンのフライ。
デザートに、お昼から作っておいたみかんのゼリー。
時刻は夕方。もうそろそろ飛び回っていたエステルも戻ってくる時間である。今日はカシウスも戻ってくると言っていたから、作った量はいつもより多い。盛り付けはエステルにも手伝ってもらおうかな、などと考えて、冷たくしたゼリーの様子を見る。思ったよりはちゃんと固まってくれているようで、ヨシュアはほっと息をついた。
「たっだいまー!んー、いい匂い。」
元気のいい声が家の中に入ってくる。
「ああ、おかえり。手を洗ったらちょっと手伝ってよ。」
「りょーかいっ!」
エステルは元気いっぱいに敬礼をして見せた。
手を洗いに来るエステルのために流し場を空け、自分はエプロンをはずしに掛かる。
「ほレおいひいわね!」
水音が消えるとほぼ同時くらいに聞こえてきたその言葉に、ヨシュアはぎょっとして振り返った。見えたのは、熱々のチキンフライを頬張ったエステルの姿。
「ちょっとエステル、つまみ食いは行儀悪いよ。」
全く、油断も隙も無い。半眼でにらみつける。エステルは悪びれもせずに笑った。
「ごめんごめん。だって、あんまりおいしそうだったしおなか空いてたし」
「それで?」
ゆっくりと微笑んで問うと、エステルの笑顔が引きつった。
「・・・ほら、こう、チキンフライが呼んでたのよ!『アツアツのうちに食べなさーい』って。だからつい・・・」
「ふーん、そうなんだ。それで?」
さらにゆっくり問う。沈黙が数秒。そして、今度こそエステルから笑顔が消えた。
「ごめんなさいっ!」
反省の色、有り。がばっと頭を下げるのをみて、一つ頷く。
「よろしい。じゃ、エステルの分は一つ引いとくね。」
言うと、エステルの表情がひきつった。
「え、ちょっとまってよヨシュア、それは」
「人数分数えて作ってたんだから、仕方ないよね。」
エステルが言い終わる前にきっぱり言い切る。
「でも」
なおも食い下がろうとするエステルをにっこり微笑んで見つめる。
「仕方ないよね?」
「・・・はい。」
しゅん、と反省したらしいエステルに一つ頷いて、ヨシュアは揚げ皿に載せたチキンの数をチェックする。・・・と、明らかに当初の予定より数が減っていた。
「・・・・・・・・あれ?4つ・・・?」
「え?!私そんなに食べてないわよ!?」
エステルもあわてて揚げ皿に視線を移す。
しかし、確かにチキンの数は減っていた。エステルが食べてしまった分を差し引いた以上に。
猫か何かにでも、と一瞬思いかけて、室内のもう一つの気配に気づく。それは、気配を殺してはいるが、・・・自分にはなんとか見破れる程度。わざとに違いない。
「父さん。今日のチキンは無しでいいの?」
気配の方を振り返ってそう言うと、間と気の抜けた音・・・とも声とも取れないものが返ってきた。
目線の先に見えているのは、口いっぱいに頬張った一口チキンフライ・・・を、もごもごさせている、父・・・カシウス。いつの間に帰ってきていたのか、本当に油断も隙もあったものではない。
「それは・・・むぐ。こまるな。ん。」
一緒に振り向いたエステルが、その光景を見て大声を上げた。
「ああああああ!父さんずるい!私だって一つしか食べてないのに」
「それはお前のやり方が下手だったせいだろう?」
次元やら方向性やらが間違った親子の会話に、ヨシュアは軽く頭を抱える。
「そもそもつまみ食いしないでよ!全くもう。・・・大体父さん、帰ってきたなら挨拶ぐらいしてよ。」
「そうよそうよ!私ぜんっぜん気づかなかったわよ!?」
エステルと二人で責めると、カシウスは参ったなあ、というように笑いながら頭を掻いた。
「悪い悪い。いやあ、だってな、チキンフライに呼ばれたんだよ。『熱いうちに食べなさーい』ってな。」
その、ついさっき別の口から聞いたばかりの言い訳に、ヨシュアは今度こそ頭を抱えた。
「・・・・・・・・・本っ当にこんなとこまで親子なんだから・・・・。」
軽く頭痛すら覚える。
「お?ヨシュア、大丈夫か?」
頭痛の原因・・・もといカシウスが声をかける。
「・・・・大丈夫だよ。父さんが3つだね?」
気を落ち着けて、無くなった数を再確認。カシウスは盛大にため息をついた。
「・・・・細かいことを覚えているなぁ。」
「まあね。じゃあ、それだけ引いておくよ。エステル、ちょっと盛り付け手伝って。」
「おっけー。」
エステルに声をかけて、夕食の準備を再開する。
「お、ゼリーまで」
「今食べたらデザート抜きにするからね。」
今度は、背後の気配にも、横の気配にも気を配って。
この分なら、今日の夕食も賑やかになりそうだ。
・・・予定は少し狂ったけど。
それは小さなことだ。
スープを温めながら、やれやれ、と息をつく。そうしてヨシュアはゆったりと幸せに身を浸したのだった。
ものそい短いけど、一気に書けてちょっとすっきりしました。
書き出すまでは共和国組過去話で書くつもりだったんですが、なんか気が付いたら違くなってて。親子って変なとこ似てるといいなと思う。で、ヨシュアもそれに染まっちゃえばいいと思ってます。