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兄弟・姉妹

「ティータ♪」
名前を呼ばれて振り返った。
声の主は、昨日姉になると言ったエステルさん・・・エステルおねえちゃん。
「なぁに、エステルおねえちゃん。」
返事をすると、エステルお姉ちゃんはとろけそうな笑顔になった。
「えへ・・・ううん、なんでもなぁい〜♪」
幸せ一杯で笑っているのはわかる。なぜかはさっぱりわからないけど。
「??」
不思議に思っていると、もう一度名前を呼ばれた。
「ティータvv」
さっきよりさらに声がとろけている。風船みたいな、シャボン玉みたいな声。
「さっきからどうしたの?エステルおねえちゃん。」
訊ねると、エステルおねえちゃんは照れたように・・・それでもかなりトロトロの笑顔になった。
「うふ・・・えへへへへ。
 いやぁ、『お姉ちゃん』って響きを味わいたくってつい・・・」
「ほぇ?」
なんだか、よくわからない。疑問を顔に出していると、エステルおねえちゃんはちょっとだけ苦笑いした。
「うちにはヨシュアって弟がいるけれど、『お姉ちゃん』って呼んでくれた事一度もないのよ。
 だから、『お姉ちゃんvv』って言われるのが新鮮で新鮮でっ・・・!!」
少し、怒ってる・・・ような感じがしたけど、後半は拳を握り締めて力説モード。涙すら浮かべかけているようで、少しびっくりした。
「えと・・・私でよければ、いつだって呼べるから、ね?エステルおねえちゃん。」
なんとなく、宥めるように言ってしまったけど・・・自分も、姉が出来て嬉しかったりする。
そう言うと、力いっぱい抱きしめられた。
「あぁもうっ・・・!!ティータってばなんていい子なのっ!!
 ヨシュアとは大違いだわっ・・・!!」
こんなふうに抱きしめられるなんてあまり無いと思う。
でも、それよりなにより、・・・エステルおねえちゃん、力強すぎ・・・
「うぐぅ・・・え、エステルおねえちゃん、苦しいよぅ・・・」
ぎゅうっと抱きしめられていたら、扉が開いて・・・ヨシュアさん・・・じゃない、ヨシュアお兄ちゃんがやってきた。首からタオルかけて・・・そっか、顔洗いに行ってたんだっけ。
「エステル、何やってるの?ティータが苦しそうだよ。」
呆れたような声。
エステルおねえちゃんは、『ゴメンゴメン!』と慌てて腕を放してくれた。
ちょっと一息。
「ほら、洗面台空いたから行ってきたら。」
「はーい。」
エステルおねえちゃんは、もう一度ぎゅっと私を抱きしめると、洗面台の方にパタパタと走っていった。
パタン、と扉が閉まると、ヨシュアおにいちゃんがため息をつく。
「やれやれ・・・ティータ、大丈夫だった?」
椅子に腰掛けて、ゆっくりした表情。
「え・・・うん。」
頷くと、ヨシュアおにいちゃんはホッとしたように笑った。
「それならよかった。」
そのまま、ちょっとだけ会話が途切れる。
ちょっと、聞いてみたいと思った。さっきお姉ちゃんが言ってたこと。
「ねぇ、ヨシュアお兄ちゃん。」
「なんだい、ティータ。」
ヨシュアおにいちゃんは、変わらず穏やかに答える。
「ヨシュアお兄ちゃんとエステルお姉ちゃんは姉弟・・・なんだよね?」
言うと、ヨシュアおにいちゃんはなぜか一瞬固まって、曖昧に笑顔を浮かべた。
なんだか少し、寂しそうなのは気のせいなのかな。
「うん、まぁ・・・兄妹みたいなもの、かな。」
なんだか・・・エステルおねえちゃんが言ってたのと、言ってることが違う・・・ような気がする。
「なんで、『お姉ちゃん』って呼ばないの?」
「えっ・・・?」
ヨシュアおにいちゃんはビックリした顔をした。それは驚くことだったのかな。
「ああ・・・だって、僕たち年そんなに離れてないし。
 それに、どちらかというと僕のほうが兄みたいなものだからね。」
後半は、また穏やかな顔に戻っていたけれど、『兄』って言うのになんか必要以上に力がこもっていた。
・・・あれ?エステルおねえちゃんが『姉』じゃなかったんだっけ・・・?
「だけど、エステルおねえちゃんは『弟がいるけれど、『お姉ちゃん』って呼んでくれた事一度もない』 って言ってたよ?」
言うと、ヨシュアおにいちゃんは、にーっこりと微笑んだ。
「えーっとね。
 エステルは僕のことを弟だと言い張るけど、現実には僕のほうがちょっとだけ年上で実質的にお兄さんなんだよ。見てたらわかると思うんだけど。
 だから、エステルの言う事は気にしなくていいからね。」
言い方に、なんだか・・・有無を言わせない迫力、みたいなものを感じる。口調も表情も穏やかなのに。
「そ・・・そういうものなの・・・?」
迫力みたいなものに気圧されて言ったら、ヨシュアおにいちゃんは満足げに頷いた。
「うん、そういうものなんだよ。」
・・・そういうもの、なんだ・・・。

「ごめーん、タオル持ってきてくれる?」
洗面台の方からエステルおねえちゃんの声がする。タオル、忘れて行っちゃったんだ。
「何やってるんだよ、エステル・・・」
呆れたようにため息をつきながら、ヨシュアおにいちゃんは素早くタオルを引っ張り出して、洗面台のほうに行ってしまった。
でも、その時、確かに聞こえた。
「何が姉弟だ・・・」・・・って。
それが、少し寂しそうに聞こえて、なんか・・・不思議だった。


新しくできたお姉ちゃんとお兄ちゃんはとても仲がいい・・・と思う。
だけど、お姉ちゃんとお兄ちゃんはどっちが上かという話をすると意見が割れる。
大抵お兄ちゃんがお姉ちゃんを言い包めてしまうけど・・・
お兄ちゃんはどことなく寂しそうで、お姉ちゃんもどことなく怒ってる・・・ような気がする。

だから「どっちが上」の話題は出さない方がよさそう。



拍手再掲というかリメイク。ポエム部分×2は入れようが無かったので削りました。
けど、これはこれでまあいいかな、と思ってます。
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