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EP泥棒

「伏せて!!」
ヨシュアの声とともにエステルの視界は回転した。
思わず目をつぶった瞬間、耳を破るような爆発音が辺りに響く。
しかし、爆発の衝撃自体はほとんど無かった。
どちらかというと、ヨシュアに突き倒された時の衝撃の方が強いくらいである。
「っはぁ・・・ヨシュア?大丈夫?」
自分の上に覆いかぶさる相方に声を掛ける。
「・・・ふぅ・・・」
息を吐くと、ヨシュアは少し慌てたように身を起こした。
「大丈夫。エステルの方こそ、怪我してない?」
「うん、平気。・・・もういないわよね?」
身を起こして、辺りを見回す。
街道の真ん中の爆発痕、その周りに散らばった何か・・・植物の破片のようなもの。そして、同じように散らばる鈍く光を放つセピス。
・・・魔物の気配は、とりあえずはない。
「さっきの爆発に巻き込まれたみたいだね。」
同じように辺りを見回していたヨシュアが、ホッとしたように言った。
「良かった・・・。」
エステルも、今度こそゆっくりと息を吐く。
「全くもう、最後の最後にあんな派手に爆発してくれるなんて。パイナップルの癖に生意気だってのよ。」
パイナップルならパイナップルらしく、大人しくフルーツサラダにでもなってりゃいいのに、と文句を言うエステルに、ヨシュアは深いため息を吐いた。
「あのね・・・あれはパインプラント。手配魔獣だったんだから、名前も注意点も最初に確認したじゃないか。もう忘れたの?」
その言葉にエステルはぷーっと膨れる。
「別に忘れてないわよ。でも、あんないきなり爆発する事無いじゃない。せめてこう、爆発するぞーってそぶり見せてくれたって」
「そんなの言ってもしょうがないだろ。あっちの知った事じゃないんだからさ。」
ぱんぱん、と土を払いながらヨシュアが立ち上がった。
「ほら。」
黄味がかった篭手が視界に入ってくる。
「どーも。」
その先、差し出された手を取って立ち上がると、エステルもバサバサと砂を払った。
適度にセピスを回収すると、放り出した荷物を肩にかける。
「さ、行きましょーか。アストンさんが首を長くして待ってるわよ。」
「待って。」
そのまま歩き出すエステルを、ヨシュアがため息とともに引き止める。
「何?」
「忘れてる事あるだろ?」
「セピスなら回収したわよ。他、使えそうなものは特に落ちてなかったし・・・」
なんかあったっけ?と疑問符で顔を埋めるエステルに、ヨシュアはため息とともに自分の手帳を見せた。
新品の皮の手帳には、遊撃士協会の紋章。
「これ。ちゃんと書かないとだめだってシェラさんにも言われたじゃないか。」
もらったばかりのブレイサー手帳だった。
「ああ・・・そういえばそんなものもあったわね。
 でも、そんなの向こうに着いてからで」
「そして忘れるんだよね。」
呆れを思い切り含んだ視線に言葉が詰まった。
「・・・・あーもう、面倒ね・・・」
エステルは、ため息をつきながら手帳を取り出す。
「面倒とか言わないの。これだって遊撃士の義務なんだよ。」
「わーってるわよ。でも、義務って言われても面倒なものは面倒なの。」
「まったく・・・・」
ヨシュアは深々とため息をついて、手帳に素早く何かを書きとめた。
「パイ・・・いいや、パイナップルをミルヒ街道西部で退治。」
エステルもまた・・・・げんなりと手帳を記入する。
「・・・終わったわよ。」
「よろしい」
すまして頷くヨシュアを少々恨めしげな視線で眺めるが、そんなものはもちろん効かなかった。
「それじゃ、行こうか。アストンさんが待ってる。」
「そーね。」
それを聞くと、ヨシュアは満足そうに歩き出した。
「・・・まったく、なんでこうもお堅いのかなあ・・・」
背中を見ながらひとりごちる。
「なんか言った?」
その声が聞こえたか、ヨシュアが振り返る。
「べっつにー。・・・・?」
気のない返事をしたエステルは、ふ、と違和感に気付いた。
ヨシュアの色が、どこか違う。
ガードの付いていない右の肩。なんか、一部赤いような・・・。
・・・血・・・!?
「ちょっとヨシュア!怪我してるじゃないの!右肩!」
「え?・・・ああ、大丈夫だよ。さっきちょっと掠っただけだし。」
ヨシュアは、片目で自分の肩を一瞥して苦笑いの顔になる。
「ほっほーぅ。」
エステルは、半目でヨシュアを睨みつけると、おもむろに右腕をひっぱった。
ヨシュアの顔が痛みにゆがむ。
「!!・・・・な、何するのさ!」
ヨシュアは少し抵抗する。しかし、エステルは腕を放さない。
「痛いんだったら大人しく手当てさせなさい。
 さっき私を庇った時のでしょ、それ。」
「痛いのはエステルが腕をひっぱるから・・・」
抵抗を見せるヨシュアを睨みつける。
「なんか言った?」
「だから、エステルが腕をひっぱらなければ痛む事も」
ヨシュアは、尚もぶつぶつと抵抗する。
「引っ張った位なら普通は痛まないわよ。つべこべ言わずにさっさと傷口見せなさい。
 さもなきゃ強制的に脱がすわよ?」
その言葉にヨシュアがジト目になる。
「・・・・・・・・・・・・・なんか、妙に強引だね?」
その言葉に、エステルの表情が少し引きつる。
「だっ・・大事な弟が怪我してるのを放っておけるわけ無いじゃない。」
少々引きつり気味の笑顔で避けても、ヨシュアの追求はおわらない。
「それだけ?」
「それだけよ、ほら。」
そういって、エステルは心なしかいそいそと鈍く光るものを取り出した。支給されたばかりの新品のオーブメントである。
そのエステルのオーブメントの真ん中には、青く輝くクオーツがはめ込まれていた。
その様子に今までの言動の理由がわかって、ヨシュアは深々とため息をつく。
「・・・・・・・・・実験台にする気?」
「いくら初めての回復って言ってもそういう言い方はないんじゃない?」
憮然とした・・・振りをして、何処かウキウキした声。それが全てを物語っていた。
「まったくもう・・・・」
好奇心のネタにされるのは本意ではないが、泣く子と目をキラキラさせているエステルに逆らうのは非常に厳しい。
それに、こういうことも慣れや実戦が必要だろう。
冷静に頭を回転させて結論をだすと、ヨシュアはまた、深く深くため息をついた。
「わかった。でも、道端でやるのもなんだから、少し道から離れよう?」
「りょーかい♪」
エステルは笑顔で、道から少し離れた木陰にパタパタと向かっていった。
「・・・まったく・・・」
そう呟いて、ヨシュアもそちらに向かった。

「ほら、肩。」
木陰に座ったエステルは、怪我のある右腕ではなく左腕をひっぱる。
「あ、うん。」
ヨシュアも、今度は大人しく、ひっぱられるままにエステルの前に座った。
エステルは、血の滲んだ肩を検めながら小さくうなる。
「傷は・・・確かに小さいみたいだけど、滲んでるわねー・・・張り付いてる分剥がすから、ちょっと痛むとおもうけど・・・我慢できるわよね?」
「あのねえ・・・もう子供じゃないんだから。」
「ほら、そこのところは気分って奴よ。
 それじゃあいい?」
「お願いするよ。」
言い終わると同時に、ピッと音がしてヨシュアの肩に痛みが走った。
「さて、んじゃあやってみますか。」
エステルはポケットの中からオーブメントを取り出すと、それをきゅっと握り締める。
その時、ヨシュアの視界の隅を、動物でも人間でもない何かが横切った。
・・・!
「エステル、魔獣がいる!」
そばに置いてあった剣を隙無く構え、潜めた鋭い声。
エステルが一瞬固まる。
そんなエステルとヨシュアの前を・・・煌く何かが跳ねた。
ふわふわとして、どこかポムっとして・・・・キラキラした何か。
「これ・・・・ポム?」
それは『どーだすごいだろー』とばかり、偉そうに煌いた。
「なんだ。別に害はなさそうじゃないの。」
エステルの緊張が解ける。
「油断しないで。」
ヨシュアの言葉は厳しかった。
「だけど・・・これ、光るだけ光って襲ってくる気なさそうよ。」
・・・確かに、害や魔獣などという言葉は不似合いなくらい、目の前にいるのはなんだか気の抜ける存在だった。
「でも、魔獣は魔獣・・・」
ヨシュアがそう言った所で、その・・・何かキラキラしてポムっとした魔獣は、エステルの方へふよふよと飛んでいった。
「!」
「あら。」
ヨシュアが動こうとするのを軽くあしらって、エステルはじっと魔獣を見つめる。
「なんか良く見れば見るほど可愛いわね。愛嬌あって。」
「油断しないでって言ってるだろ。」
そう言って、ヨシュアはエステルと魔獣の前に入った。
少し怒気を孕んでいるその気配が怖かったのか、その魔獣はふよふよ、とエステルの後ろに隠れる。
「あー、背後は取られるわけには行かないの。」
そういいながらエステルはくるりと魔獣に向き直る。
「ほら、怖ーいヨシュアが本気で怒る前に逃げちゃってちょうだい。」
「エステル!」
今度こそ。ヨシュアの表情と声は、厳しいを通り越して怒っていた。
「ひゃー、怒ったー」
「怒った、じゃないだろ!相手は魔獣なんだよ!?」
その魔獣の方はといえば、ヨシュアの声に驚いたのか、びくりと固まっている。
「けど、害ないし。可愛いし・・・ねぇ?」
ふわふわキラキラでポムっとした物体に向かって同意を求めてみる。
それは、同意したのかなんなのか、ピカピカと発光した。
エステルの手の中、ヨシュアの胸のあたり・・・なぜかその光はオーブメントを目指している。
それに釣られるようにして、二人の視線はオーブメントに向かった。
・・・・!?
そして、視線が止まる。
オーブメントのEPメーターが、目の前でぐいぐいと減っていた。
瞬間、エステルの棒がうなりを上げる。
少しタイミングをずらし、ヨシュアの一閃が空気を切り裂く。
目標は、キラキラした光沢を放つポムっとした魔獣。
息の合った波状攻撃。しかし、それらは風を裂いただけであった。
華麗に、余裕さえ感じさせる動きで二人の攻撃を避けた魔獣は、もう一度きらりと発光すると、そのまま目にも留まらぬ勢いで去っていく。
姿が完全に見えなくなるまで、およそ半秒。
そして。
「待ちなさい!こんのEP泥棒ーーっ!!」
エステルの怒鳴り声が、ミルヒ街道に響いたのだった。


「まったく・・・可愛い顔してなんて奴っ・・・!」
イライラとエステルはティアの薬を手に取る。
「・・・だから油断しないでって言ったのに・・・」
ため息をつきながら、ヨシュアも少し血で汚れた上着を脱ぐ。
「・・・・・・薬塗るわよ。」
ヨシュアの言葉は軽く無視。ぷーっと頬をふくらませて、エステルはヨシュアの傷口に少々手荒に薬を塗っていく。
先ほどの魔獣のお陰で、エステルとヨシュアのオーブメントはEP切れで使い物にならなくなっていた。
駆け出しの見習い遊撃士である二人が、EPチャージなどという高級品に手が届くはずも無く、・・・・いつもどおり、薬と包帯が大活躍中である。
「ほら、できたわよ。」
少々乱暴に、少々乱雑に包帯を巻き終えると、エステルはバシッと包帯の上を叩いた。
「痛っ・・・傷口叩くのはやめて欲しかったんだけど・・・
 ま、いいや。ありがとう。」
「どーいたしまして。」
前半部分は聞き流して相槌をうつと、エステルは拳をにぎりしめた。
「あーもう!折角の初回復アーツだったのに!」
「油断してるからだろ。
 ま、回復アーツなら、これから先いくらだって使う機会あると思うけど。」
冷静にツッコミを入れながら、ヨシュアも服を着る。
「あのキラポムの奴!
 今に見てなさい!今度会ったらぜーったいとっちめてやるんだから!」
エステルは薬瓶を握りつぶさんほどの勢いで握り締める。
「はいはい、今度からは見かけに騙されないようにしようね。」
魔獣が消えた原っぱを睨みつけるエステルを見ながら、ヨシュアは本日何回目とも知れない深いため息をついたのだった。

そして・・・・
程なく二人はリベール王国を回る旅に出ることになるのだが。
その道中には、キラキラとした光沢をもつポムっとした魔獣を見かけるたびに、あの時の恨みとばかりに殴りかかる二人・・・というよりエステルと、それにひっぱられるヨシュアの姿が見られたという。

しかし、リベンジはというと。

「あーもうっ!!!また逃げられたっ!!」
「なんて素早いんだ・・・・。」

・・・未だ成っていないようである。


初めて使えるようになったアーツや必殺技を使う時って、とてもわくわくしますよね。
そして、使おうとした時にEP・CP切れてるとがっかりしますよね・・・!!

さて。軌跡やった人ならかなりの人がキラキラとした光沢を誇るポムっとした物体に逃げられたり光沢を誇られたりした記憶があると思います。
私も初回は逃げられて、倒し方もわからず、『倒せないもの』と思い込んでました。
でも、可愛いんですよね。必死こいて勝利すればセピス&経験山のようにくれるんですよね。愛せますよね。むしろ愛。
ってわけで愛のひとかけらを表現してみました。
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