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扉

「一人で大丈夫ですから」
そう言って、ケビンたちを押し切り、ティータは一人扉に入った。月のレリーフが施された謎の扉。外から見たときは、回廊に唐突に扉だけが立っていて、裏側が見える状態だった。実は扉を開けた時も、あっち側が見えたりするんじゃないかと一瞬思ったりしたのだが、予想通り・・・どんな仕掛けかは知らないが、その扉には中身があった。
何も無いのに殺風景とは違う、不思議な部屋。
月をかたどったステンドグラスがまず目に入った。そこから柔らかい光がさして、部屋の中を照らしている。何より最初に綺麗だな、と思った。
神秘的、幻想的、神聖な・・・緊張していたのに妙に落ち着く、そんな部屋。窓から差し込む光の中に進み出ると、女神様の声がした。・・・いや、女神様の声を聞いたことはないのだが、その声はそういう雰囲気をもっていた。
穏やかで強く優しい声は、試練の訪れを告げて、すっと引いていった。
そうして、試練が訪れる。
モンスターと戦った後見せられたものは、少し前の自分の姿。
ただ、まるでいいところで終わった夢のように中途半端なところで切れていて、・・・先は知っているのに、妙に先が気になった。
気がつくと、またステンドグラスの部屋。手元にはなぜか褒章のような荷物。それをもって、ふわふわと夢から覚めるように扉を開けると、心配していたらしいケビンとリースが全力でホッとした表情で出迎えた。
手元にあった荷物を渡し、中での事を報告する。引っかかりどころは山のようにあったのだが、ティータとしては、なぜあんな中途半端なところで話が切れたのかと、それが一番気になっていた。
続きが気になる。
だから、その扉を去る前に、もう一度扉を調べてみた。

文字盤が変わっていた。

猛き炎、とは何をさすのかさっぱりだったのだが、また来い、ということ・・・なのだろう。なんとなく納得だけして、一行はその扉を後にした。

それからしばらくの後。
かつての仲間がなぜか敵として出てくるようになった。一回目はケビンとリース。次はアネラス、さらにはシェラザードまで。そして、4回目。残りはエステルかアガットだろうという話をしながら、探索メンバーが向った先には、話によればアガットが居たらしい。
グリモアが擬態しているのだとはいえ、アガットはやっぱりアガットだったらしく、当たった面々は口をそろえて手ごわかったとため息をついて戻ってきた。
お土産には、金色の封印石が一つ。
おまちかねやろ、と笑う声も半分聞き流して、解放されるその人を待つ。
「おい、ダン!これは何なんだ!またエリカ・ラッセルのトラップか!?」
勢いよく両親への文句を怒鳴りながら出てきたアガットに、ティータは思いっきり抱きついたのだった。


ひとしきりからかわれてつつかれて、休憩に入る。食べ物を取りにいったり、武器を見たり本を探したり皆それぞれにくつろぎに入った。
そんな中。
「な、ティータちゃん。」
手帳をぱらぱらと眺めていたケビンが声を掛けてきた。
「はい?」
そちらに向うと、ケビンは手帳を指し示しながら言った。
「一番最初のあの月の扉、今行ったら開きそうな気ぃせん?」
「最初の・・・って、あの翡翠回廊のですか?」
半端なところで終わった記憶の欠片の扉は、割とすぐに思い出せた。
「そうそ。ほら、二回目の奴『猛き炎』てあったやん。あれ、アガットさんのような気がするんやけど。」
「猛き炎・・・確かに、なんかぴったりですね。」
確かにティータの中でも、アガットのイメージは炎の人だ。
「やろ?あの赤毛間違いないと思うんや。 どう、行かへん?」
「でも、エステルお姉ちゃんが・・・」
多分この次に待っているのは悪魔で、今までのセオリーからいけば、その悪魔がエステル入りの封印石を持っている予定だった。
「うん。でもな、今までのパターンからすると、扉を開けたらなんか褒章が来るようやし。物によっては大幅に戦力アップやろ。なぜかミラも来るし。
 つまり、悪魔と戦う前にちょーっとパワーアップとかできんかなーと思ったんやけど。」
なるほど、それなら納得がいく。
「わかりました、それなら行ってみます。」
「何がくるかはわからんけど、あの兄ちゃんおるなら平気やろ?」
軽いウィンクに、ティータは顔を赤らめつつ頷いた。
「はい、がんばりますっ。」
とはいえ。
こっちの世界に来て間もないアガットは、説明を受けても案の定怪訝な顔しかしなかった。
「・・・・・・・・・・まあ、必要ならいいが・・・・。なんなんだそれは。」
「まあまあ、行けばわかりますって。ただ、戦いになったりもするみたいやから気をつけて行ってください。」
そう言われても、疑問符が増しただけの様子である。
「さらにワケわかんねえとこだなオイ。」
ケビンはパタパタと手を振った。
「ここはそもそもワケわからんとこですって。ちなみにこれが今までの記録で。」
そう言って聖杯手帳の該当箇所を見せると、アガットは眉間にしわをよせつつ目を走らせていく。内容はまちまちでメンバーも比較的満遍なく当たっていたりするのだが。
「・・・何がなんだかだな。・・・もういい。とりあえず連れて行ってくれ。」
やっぱりよくわからなかったらしい。手帳をため息と共に閉じて、ケビンに渡す。
「んじゃ、ティータちゃんもいこか。」
ケビンがティータの手を取った。
「はい。よろしくお願いします。」
「んじゃ、しゅっぱーつ。」
今ではもう慣れてしまった方石の光に包まれる。次に出てきた風景は、なんだか見覚えのある翡翠回廊、扉の前だった。
「便利というか、ご都合主義というか・・・何なんだこれは。」
聞いていたとはいえいきなり変わった景色にアガットがうめく。
「さあ・・・でも、どうやらそういう風に出来てるみたいですんで。」
俺らはそれに合わせるだけです、とケビンは肩をすくめる。そんなケビンに、アガットはため息をつきながら扉を指差した。
「で、この扉か?」
「ええ。多分アガットさんとティータちゃんで行けるんじゃないかと。」
「ふん・・・見た目だけは意味のない扉のようだが・・・そんなに簡単には済む訳ねえか。」
裏を調べたり表を調べたりして、謎だけが深まった、らしい。アガットが扉の表に手をついた。扉が燐光を放つ。
「アガットさん、扉が・・・!」
「?!」
反応しているのだ。どうやらメンバーは当たっていたらしい。
「そういうわけですんで、気をつけて行ってきて下さい。多分待ってる皆さん方も土産話期待してると思いますんで、よろしく。」
ケビンがひらひらと手を振る。
「アガットさん、あの・・・行きましょう。」
そう言って、ティータはノブに手をかける。
「あ、ああ。
 代われ、先に何がいるかわからないなら、俺が開ける。」
「え、あ・・・はい。」
ノブにかけていた手を外すと、アガットの手が代わってノブに手をかけた。
「いいな?」
ぼそっと確認をとる声。
「大丈夫です。アガットさんが一緒ですから。」
「なっ・・・・」
笑顔で応えると、アガットが一瞬固まった。
「・・・ったく、行くぞ。」
空いた手が頭の上にボフッと落ちてくる。
「はいっ。」
軽くノブが回転して、扉が開いた。今度は二人であの部屋に入り込む。
相変わらず何も無いのに殺風景とは違う不思議な部屋は、以前に入ったのと同じようにそこにあった。
「なんだ・・・教会みたいな所だな。」
警戒しつつ辺りを見渡しながら、アガットがそう言う。
「教会、ですか?
 ・・・そういえば、クローゼさんも同じ事言ってました。」
ここの世界・・・影の国のルールもわかってきた頃。
おなじみの扉から、ヨシュアと一緒に帰ってきたクローゼを出迎えたときに、クローゼが、ほそっと呟いたのだ。
『あの部屋の中、教会の中みたいでした。』
いつもと同じように優しい笑顔を浮かべるのに、その表情は苦笑いというのが一番近かったことだけ、なんだか覚えている。
「へえ、姫さんもか。
 ・・・なんかな、あのステンドグラスとか雰囲気とか、似てる気がすんだよな。」
「言われてみれば。えへ、ちょっとロマンチックですね。」
ステンドグラスの光の中、二人。いつぞやロレントで見た結婚式を思い出す。
真っ白なウェディングドレス、祝福の鐘の音、一杯の花・・・そして素敵な旦那様。
それはきっと夢みたいに幸せなことなのだろう。そんな日がいつか来てほしい・・・自分にも。ふと想像して顔が赤くなる。
さすがに恥ずかしかった。バレてないことを祈りつつ、ちらりと隣を見上げる。
「ロマンチック、ねえ・・・」
ピンとこない風のアガットは、ありがたいことに気付いていないらしい。
「・・・試練とやらがロマンチックとはとても思えねえがな。」
ロマンチック以前に、・・・言われれば確かに今から扉の試練、だった。
「あはは、そうでしたね。」
照れ笑い半分でそう言うと、アガットは、半分びっくりした面持ちでティータのほうを向いた。
「お前、やっぱり大物だよな。」
声も苦笑い半分で、少しだけ釈然としない。なので、少し話題を変える事にした。
「うー・・・。
 あ、試練ていったらですね。・・・ここ、前に来た時、お母さん達が帰ってきたときの記憶が流れたんですよ。」
そうして、なんかとても中途半端なところで切れたのだ。それを言うと、アガットは眉間にしわをよせた。
「・・・・・普通に考えれば、それの続きだよな。」
「はい、多分。・・・・あ。」
記憶の続きに頭が追いつく。おそらくアガットが思い出しているのもあまり変わりないに違いない。
「えとえと・・・その、もしかしたら違うかもしれませんし。」
その言葉は、アガットは半分も信じていない風だった。
ここに来てまでエリカ・ラッセルに関わるのか?これは呪いか?・・・などとぶつくさ呟いているアガットは、どう見ても気が進まないらしい。起こった事を考えれば当たり前なのだが。
「まあ、いい。とりあえず死にはしないだろう。さっさと終わらせるぞ。」
盛大にため息をついてステンドグラスの方を見上げる。
「あ、えと、多分あのステンドグラスのところです。行ったら、女神様の声みたいなのが聞こえてくるんです。」
慌てて先に行こうとすると、頭を引き寄せられた。
「ふえっ!?」
「いくら何も居なさそうだからって、一人でちょろちょろすんな。」
声が少し怖い。危ない、といいたいのだろう。その声の怖さも優しさだということくらい、もう判る。
「あ、・・・はい。」
だから、素直に頷いた。
「わかればいい。行くか。」
先に立って、歩き出すアガットの手に掴まる。アガットは歩くスピードを少しだけ緩めた。
「よろしくお願いしますね。」
「ああ、こっちこそな。」


二人の試練が、始まる。


扉に行く時、いつもあっさりだったから、ちょっと会話とか想像してみた。断片をつなげようとして失敗した感じするんだけど。 扉の中入ったとき、教会みたいだなーて思ったのは私の感想です。
が、それ前提でクローゼの気持ちとか考えるとものすごい微妙だなーと思いました。
好きな人とロマンチックに素敵な教会で二人きりなのに、直後に見せられたんは自分がその人に思い切り振られる図、とか。覚悟できてても苦笑いだと思う。
手直ししてるときに聞いてたのが初音ミクの「ハジメテノオト」だったので、ちっと初々しさと可愛さUPしてるといいな。
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