「今日も雨かあ・・・」
窓から空を見上げて、ティータはため息をついた。
雨は今日を入れて3日ほど降り続いている。
別に、雨が嫌いなわけではない。大好きな機械いじりだって、部屋の中でやる事のほうが圧倒的に多いのだから、晴れていようが雨だろうが関係はない。関係はないのだが・・・
「困ったなぁ・・・」
後ろを振り向いて、また、ため息。視線の先には、無理やり部屋の中に干した洗濯物がゆれていた。たまりにたまって、寝室と居間まで侵食してきているが、もちろん全然乾いていない。おかげで部屋は湿気だらけだ。
この間開発した自慢のターボモーター搭載の扇風機も、湿気を取るようにはできていなかった。空気がかき混ぜられている分だけマシといえばマシなのだが。今度は湿気も取れるようなものを開発したい、と思う。とはいえ、この扇風機の前にいると、他より大分涼しいのは嬉しかった。明日来る予定のアガットも喜んでくれたりしないかな、などと一人にやけてしまう。
・・・・それでも、これはこれそれはそれ。
明日の夜にはアガットが来るというのに、洗濯物を干しっぱなしで迎えたくは無かった。女の子として、一応家事をやってるものとして、大事な客が来るとわかっていてそんなみっともない事はしたくない。
「明日、晴れてくれないかなあ・・・・」
窓の外を見て、またため息。
15秒で作れる雨雲除去装置の作り方がわかっていれば今すぐにでも作りたい、そんな感じだったのだが、残念ながらというか当たり前というか、天気を変える機械なんてものは資料すらなかった。それに、天気を思うままに変えられる、というのも何か間違っている気がする。
雨雲除去・・・
どうしようもないのかな、と考えるティータの頭の中を、ふっと歌がながれた。
てるてるぼうず てるぼうず あした天気にしておくれ
明日天気にしてほしい。
この際神頼みでもなんでもいい。そう決めると、ティータはぱたぱたと棚の方に走っていった。
お目当ては、白い布とリボンと詰め物、ついでにサインペン。やることなんて一つだ。
詰め物を白い布に包んで、ピンクのリボンをかける。首のところからつってみると、案の定「さかさ坊主」になった。詰め物を調節して、ひらひらした首の下に隠れるようにおもりをつって、もう一度。今度は可愛く出来てくれた。
「よっし」
サインペンのケースから、とりあえず水色のペンを出して、顔を書く。
窓辺につるせばできあがり、だ。
「お願いだから、明日こそはお天気になりますように。」
お祈りをするように手を合わせると、てるてるぼうずは困ったようにゆれて、こちらを向いてうなだれた。その顔は、簡単に顔を書いただけなのに、しゅん、と沈んでいるようにも見える。見上げるほうのティータとしては、なんとも頼りない感じがした。
「大丈夫かなあ・・・」
てるてる坊主を見上げても、「どうかなあ?」という感じに見下ろされる。
どうかなあ、じゃ困るのだ。
「・・・・もういっこ作ってみようかな。」
今度は頼り甲斐のありそうなのを。早い話が、ちょっとだけサイズを大きくして。2個にしたら効き目も二倍、とかそういうこともある・・・・かもしれない。良く聞く言葉でいえば「気合」というやつだ。
また、詰め物を白い布にくるむ。頭でっかちのてるてる坊主はさっきよりもバランスが悪い。だから、バランスを直しておもりをつって、今度は気合を込めて赤いリボンを結んでみた。首からつると、なかなかの姿勢で安定する。
「なんか、頼り甲斐がありそう?」
大きさのせいかバランスのせいか、込めた気合のせいか、そんな気がする。
青いサインペンで同じように点・点と目を書く。つぶらな瞳のそれは、頼っていいのかどうかわからないような表情でこちらを向いた。
「んー・・・・そうだ。」
赤いサインペンで眉を書いてみる。直線2本だというのに、それだけで頼り甲斐がみえてくるのはどういうことなのか。ついでにあごのところに、とか、緑のリボンを頭に、なんて気もわいてくる。
「・・・んーん、だめだめ。」
頭の中をよぎっているのはたった一人。赤毛のその人は確かに頼り甲斐はあるし、カッコいいし、強い人で、手助けもしてくれるのだが、ダメな事無理なことははっきり言うし、基本的にはティータが自力で解決する事を望む人だ。
だから、てるてる坊主とはいえ、その人に頼るのはここまでにしておこうと思った。ちょっとだけ面影がわかるかな、程度に。
窓の隅、小さなてるてる坊主のとなりに大きなてるてる坊主をつるす。
「明日はお天気にしてください。」
お祈りするように手を合わせると、大きなてるてる坊主はゆらりとゆれて、外のほうをむいた。それにあおられたのか巻き込まれたのか、小さなてるてる坊主も寄り添うように外を向く。
しかたねーな、と、あの声で言われたような気がした。
小さいてるてる坊主も、がんばります、と言っているように見えた。それが、なんだか自分みたいで、我ながら少しだけ照れくさかった。
「お願いね。」
もう一度お祈りして、湿気たっぷりの部屋のほうに戻る。
部屋から出るときに振り返ってみると、二つのてるてる坊主は仲良く窓の外を眺めてゆれていた。
大丈夫、明日はきっと晴れだ。
なんていいつつ、かなり乙女モード入ってますけどね、これ(笑)いいんです、乙女なティータは可愛いと思うから。可愛い事は正義だよ!