その声に惹かれる様にして、意識が覚醒していく。
「・・・・ん・・・・。」
視界も意識もぼやけている。
しかし、薬のにおいと見慣れない天井に気づいた瞬間、意識だけははっきりと覚醒した。
「?!」
飛び起きて愛剣を探す。
「あっ!!」
寝ていたベッドの横に立てかけてあるのを掴んだところで、赤と金色の何かに飛びつかれた。
「気がついたんですね!!・・・・よかったぁ・・・・。」
「・・・・・あんときの・・・ガキか・・・?」
飛びついてきたモノは、祖父を紅蓮の塔に一人で追いかけてきた・・・・あの子供。
今は、自分にしがみついて・・・泣いている。
・・・って、何で泣いてるんだっ!?
「お、おいっ、泣くなっ!俺はガキに泣かれるのは嫌いなんだ!!」
「・・・あぅ・・・ごめんなさいっ・・・。」
ぐしゃぐしゃになった顔をこすって、ティータが顔をあげた。
「・・・ここは、どこなんだ?」
泣き顔を直視するのもなんなので、多少目をそらしながら聞く。
「中央工房四階の医務室です。
トラット平原道で倒れられたアガットさんを、通りすがりのジンさんが運んでくださった・・・んで・・す。」
また、しゃくりあげる声がして。
「ごめんなさいっ、私のせいでこんな事になってしまって・・・!!」
わぁっっと泣き崩れる。
「・・・一般人を守るのも仕事のうちだからな。」
それに、塔でもう謝られたし、自分の言い分も言ったはずだから。
しかし、そんな言葉は聞こえてないらしく、ベッドにうずくまって泣くばかり。
倒れるより毒にやられるより、こちらの方が堪えているのは気のせいだろうか。
「あーもう、泣くなっ!うるさいんだよ!!」
耐えかねて声を荒げたところで、医師と思しき女性が入ってきた。
「あら・・・目が覚めたみたいだけど、・・・お邪魔だったかしら?」
面白いものを見た、と書いてある医師の顔を睨みながら。
「・・・とりあえずこいつをどうにかしてくれ。」
顔は上げたものの、未だにしゃくりあげているティータを指差す。
「そんなに邪険にしないの。
あなたのために、危険な鍾乳洞まで行って薬草とってきてくれたんだから、少しは感謝なさい。」
「・・・・・・・!」
「それと、毒は抜けたみたいだけどしばらくは安静にしておきなさいね。
毒を抜く時にかなり体力を使っているはずだから。」
いって、女医はまた部屋を出て行った。
「・・・・・おい、ガキ。」
ティータの顔は見ないまま、声を掛ける。
「・・・・・うっく・・・はぃ・・・?」
「俺は、無茶な事はするなと言わなかったか?」
抑えた声が・・・微妙に震えているのはわかるが、抑えてるだけ感謝しろといったところ。
「・・・けど、アガットさんが倒れたのは私のせいですからっ・・・」
「お前のせいだから、なんだ?また、無茶やって周りに迷惑掛けたかったのか?」
言い方がきついのは百も承知。だが、これ位言わないと・・・またやらかすのは目に見えている。
「・・・・・・。」
自分だけでいい。
姉や兄のように慕っているあの新米どもまで傷つけたら、こいつはきっとまた泣くから。
「俺は無謀なガキが」
「・・・だけどっ!」
言いかけた言葉は、泣きすくんでいたガキにとめられた。
「アガットさんが倒れた責任は私にあります!
だからっ、私に出来る限りのことはしたかったんですっ・・・!」
涙で潤んだ瞳は、自力で立ち上がった時と同じ強い色をしていた。
「無茶はしませんでした。エステルお姉ちゃん達の了解もとりました。
私は、私がやらなきゃいけないことをしただけです。」
泣いているのに、とても強い声。
妙なところで強情なところが、今はもういない妹をなんとなく思い出させる。
・・・言っても無駄ってことか。
それに、やってしまった事をいまさら言っても仕方ない気がしてきた。
「・・・・・お前、本当に気合入ってんのな。」
はぁ、と一息つく。
我ながら似合わないが、悟りの境地とかそんな感じだった。
剣を取って、起き上がる。足は少々微妙だが、これくらいならまあいつもの事。
「えっ?アガットさん?
まだ安静にしていないと・・・無茶しちゃダメですよっ!?」
自分より明らかに無茶なくせに何を言うのだろう。
「お前に言われたくねぇ。」
言って、まとわりつくティータを払う。
「あぅ・・・だけど!せめてミリアム先生に一言言わないと・・・」
「呼んだかしら?」
計っていたかのようなタイミングで扉がまた開いた。
「あら・・・あなた本当に頑丈ね。もう歩き回れるなんて。」
「ああ、鍛え方が違うんでな。
早いところ現場復帰したいんだが、出て行っていいな?」
もっとも、とめられてもギルドに行く気ではあったが。
「・・・とめても無駄でしょうね。一応無理はしないように。
安静が必要ってことをわかっておきなさい。いいわね?」
女医は、やれやれ、といった風情で続ける。
「ティータちゃん。この男を見張っといてくれるわね?
無茶しようとしたら、そのカノンでふっ飛ばしていいから。」
「え・・・あ、はいっ、わかりましたっ。」
ティータがヤル気満々でカノンを肩に掛けた。
「邪魔なだけだ。いらねーよ。」
「見張りってのは邪魔なものよ。」
一言の元に却下される。
「それと、その様子じゃまだ言ってないみたいだけど、ティータちゃんにちゃんとお礼言っときなさいね。
ティータちゃん、ずっとあなたに付いて看病してたのよ?
それと、教区長さんやエステルちゃんたちも。あなたのために結構大変な事やってたんだから。」
ぴしり、と指を突きつけられてはもはや、抗う事は無意味だった。
「・・・わぁーったよ。センセ、世話になったな。」
言いながら医務室をでる。
足元をティータがてこてこと付いてきた。
「おい・・・本気でついてくる気か?」
「はい。あの、見張り云々はともかく、エステルさんたちの話をききたいので・・・。」
「・・・そうか。」
「あのっ・・・・」
「なんだ?」
「無理しないでくださいねっ?」
余計なお世話だ、と思ったところで、先ほどの女医の言葉が頭をよぎる。
『ずっとあなたについて看病してたのよ。』
・・・・・・おせっかいな話だ。
「心配しなくても、お前ほどの無茶はしねーよ。」
「えっ。」
「そりゃそうと・・・
ずっと・・・看てたんだってな?」
「え・・・あ・・・夜は交代でしたけど・・・。」
「そうか。」
それにしたって、子供なのに大分無理をさせたような気がする。
「・・・・・ありがとな。」
「!・・・え、いえっ・・・当然のことをしただけですっ。」
ふるふると首を振るティータを軽くはたいた。
「あぅ。」
「お前なあ・・・ガキならガキらしく、人の感謝くらい素直に受け取れ。」
「・・・あ、っ・・・はいっ。
ど・・・どういたしまして・・・。」
「それでいいんだよ、それで。
さ、ギルドに急ぐぞ。じーさんを早く取り返さないとな。」
ティータの顔がぴょん、とあがった。
「は・・・はいっ!」
てこてこと付いてくる小動物のようなティータをつれて、アガットはギルドへ向かうのだった。
この話書いてた時・・・なかなか「ティータに頭があがらないアガット」にならなくて困った記憶が。
でも・・・今見れば、「まーいーかー。」なんて思ってるダメな人がここに。少なくとも、アガットはそれっぽく・・・見えると良いなぁ。