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あなたと一緒にいたいから

 行くごとに明らかに破壊力と殺傷能力と殺意の増しているトラップをかいくぐり、目の笑ってない笑顔のダンと食事中でも零れる殺意が見て取れるエリカに囲まれて食事をし、ティータに引きずられていった部屋で寛ぐ、というコースはそろそろお定まりになりつつあった。
 月末の食事会も何度目だろうか。前半部分はもはや修行と思う事にしたが、それでも行ってしまうのは別に自分に被虐趣味があるわけではなく、ティータの笑顔に逆らえないからである。まあ、最近ダンとエリカのほうも慣れてきたのか、少しずつ態度が和らいでいる気がしなくもない……というか、たまに気の抜けた行動も見られるようになってきたし、このまま収まればいいんだがなあと言うのは口に出さない希望だった。
 月ごとに訪れるため、毎回そこまで変わった事があるわけではない。ただ、それでも少しずつ変化はあって、例えば、料理は随分自分の好みに合うようになってきたし、部屋は明らかに機構サンプルとぬいぐるみが増えているし、中にちょこちょこ謎の発明品も混ざっているし、話す内容も随分技師らしくなってきていた。
 遊撃士協会で配布されるオーブメントの用途だとか裏技だとか、ここ最近の開発事情だとか。以前よりはるかに詳しくなったし、随分努力もしているらしい。最近はレンとも何か合作しようとしているとかで、一抹の不安はさておき成功するといいなと言ったところだ。だが、技師一辺倒かと思いきや料理も随分上達しているし、……随分味が自分の好みに合うようになってきたし……どうやら武器の手入れや改造も怠っては居ないようだった。
 今日だって、部屋に無造作に立てかけられたガトリングガンは随分洗練されたデザインで、取り回しもしやすいようにしてあるのだが、サイズが明らかにティータ向けなのだ。
 「……アレ、お前のなのか?」
 横目で見て問うと、ティータは目をそちらに向けた後、元気よく頷いた。
 「え、っと……?ああ、あれは、自分用です。えへへ、随分使いやすくなったんですよ。」
 とても嬉しそうにひょいっとガトリングガンを抱える姿は、楽しげなのだがどこかとてもシュールなものを見ている気持ちだった。いや、以前だって確かに導力砲を抱えて旅していたし、戦闘する事だってもちろんあったのだが。ティータはあくまで一回りも年下の子どもであり一般人なのだ。
 「そんなもんいつ使うんだよ。」
 呆れ半分の言葉にも、ティータは首を傾げただけだった。
 「街道に出なきゃいけない時とかあるじゃないですか。」
 「馬鹿、そういう時は素直に護衛頼めっつの。」
 一般人としての自覚がとても欠けているのはいつぞ危険な旅に成り行きとはいえ引っ張っていったせいだろうか。思わず額を押さえると、もごもご、とティータが声を出した。
 「……その、何かあったとき、私も何かできたらいいなと。」
 「そんな機会」
 作らねえよ、と言おうとした言葉はごく自然に遮られた。
 「前よりずっとずっと整備も上手にできるようになったんですよ。
  だからきっと、前より一杯役に立てると思うんです。
  整備だって、お料理だって、戦うのだって……これはまだあんまり自信ないんですけど。」
 まくし立てるように言うのは、いつだったか旅に連れて行ったときと同じ……説得や懇願の時のティータの癖だ。
 「だから何かあったら今度は渋らず連れて行ってくださいね?」
 そう言ってこっちをぴしりと真っ直ぐに見つめる。
 困った、というのが正直なところだった。この芯の強い言葉と眼に、自分は何度も助けられていて、何度やっても負けてしまうのだ。
 ただ、困りはしたが、確かに一緒に戦った事は何度もあるし、この調子なら断りたくても断れないのも既に解っている事だった。それにこの努力はどうやったって認めるしかないのだ。
 「お前随分頑張ったんだなあ。」
 諦め半分で頭を撫でると、くすぐったそうにティータが笑う。
 「そりゃあ、もう。……だって……えへへ。」
 笑い声の先は小さくて聞き取れなかったが、少してれて笑っている姿はなんとも昔と変わらない、幼い姿のままだった。
 
 (……だって、あなたと一緒にいたいから)



ツイッタの診断で「『あなたと一緒にいたいんだもん』で140字SSを書く」とかいうのが出てきたので書いてみました。
ティータは、アガットさんと一緒に居るためだったら出来る限り頑張れるよ!という私の思い込みはあながち間違ってないんじゃないかなと思わなくもないです。認めてもらう事が一緒にいられる第一歩だって多分無意識でも解ってるんじゃないかな。
そして、アガットさんはそんな小さな努力を認めれば認めるほどに対等に見ざるを得なくなって、妹扱い卒業に近づいていくのだろうなあと思います。頑張れティータ。
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