その礼らしく、城の晩餐会に招待され、自分には不似合いなくらい豪奢な部屋を用意されて・・・どこか落ち着かない。
・・・そりゃ確かに、半野宿生活よりはマシだけどな・・・。
それに、ゆったり寛げる時にしかできない事もある。たとえば、今回の事件で機械を斬り倒しまくったお陰で、微妙に痛んでしまった愛剣の手入れとか。
ちなみに、コレが終わったら同室のジンと飲み屋に行く予定である。
想像以上に痛んでいたお陰で、手入れに手間取り・・・ジンは先に行かせたのだった。
・・・と。
「アガットさーん?いらっしゃいますかー?」
部屋の外から自分を呼ぶ声。
それは、つい最近まで護衛対象だった少女の声である。
「あぁ、なんだ?」
剣を傍らに置いてドアを開けると、ティータがにこにこと立っていた。
「よぅ、ティータ。えらくご機嫌だな。何かあったのか?」
「えへへ・・・。ほら、今生誕祭あってるでしょう?」
確かに生誕祭の真っ最中ではある。
というより、ティータもその祖父の博士と一緒に生誕祭の晩餐会に招待されているのだが。
「確かににぎやかだが・・・それがどうかしたのか?」
「あのですね!アガットさん、一緒にアイスクリーム食べに行きません?」
ティータの目はきらきらきらと輝いている。
「・・・・・・はぁ?」
「東街区に美味しいアイスクリーム屋さんがあるそうなんです♪
王家御用達とかいう評判で・・・きっと美味しいですよ♪一緒に行きましょう?」
期待に満ち満ちた瞳。きっとティータの心は件のアイスクリームで一杯なのだろう。
しかし。
・・・冗談だろ・・・。アイス?女子供が喜ぶよーなのを食えと?
それでなくても、あまり甘ったるいのは勘弁して欲しいところ。
「・・・いや、俺は遠慮しとくぜ。甘ったるいのはあわねえ。」
言ったとたん、ティータの表情がしゅんと沈んだ。
そして、アガットとしてはそれは・・・苦手な表情第一位である。
散々泣き顔も見てきたが、元が気丈なのがわかっているものだから・・・暗い顔をされると、妹を泣かしたようで非常に辛いものがあるのだ。
「いや、あのな。俺は・・・これからジンの旦那と約束があんだよ。」
慌てる必要などどこにも無いのに、慌ててしまうのは・・・あんまり認めたくは無いが、この少女にいつの間にか弱くなってしまったからだろう。
「あぅ・・・。残念です。」
ため息一つ。
その上、少々未練の残る顔で見つめられてはどうしようもこうしようも。
「まぁ、じーさんと行ってくるんだな。久々に水入らずってのもいいもんだぞ。」
言いながら、ティータの頭をぽんぽんと叩く。
「はぁ・・・アガットさんも一緒が良かったんですけど・・・。」
「先約があるんだ。悪ぃ。」
別に自分は悪くないのに、ついつい謝ってしまうのも、きっと間違いなく自分がティータに弱いからだと思う。
「わかりました。それじゃぁ、また。」
まだ未練は残っているようだったが、ティータはきびすを返すとパタパタと駆けていった。
夜は、招かれていた晩餐会。
リベールの宮廷料理などという、およそ自分には縁のなさそうなものを食べたのだが。
晩餐が終わって部屋に戻ろうとしたところで、またティータが駆けてきた。
「アガットさん!あの、この後予定ありませんよね?」
「あぁ・・・なんでだ?」
「アガットさんに、お土産があるんです。私達の部屋に来てください♪」
天使の微笑みとはこういうものを言うのだろうか。
その瞳の輝きは機械をいじっている時に負けるとも劣らず。
この表情を見るとなんとなく和んでしまう自分がそこに居る。
そして、勝手に手を引かれ、部屋に連行されかけている自分に気づいた。
「お、おい。慌てるなって。」
期待一杯のティータに、その言葉はほとんど無意味なようだった。
「おぉ、青年。よく来たの。まぁ座れ。」
部屋に入ると、ゆったり寛ぐ博士の声が出迎える。
「あ、あぁ・・・。
悪ぃな、水入らず邪魔しちまってよ。」
「なーに、構わんさ。ティータも喜んでおるからの。」
博士はいつものマイペースでふぉふぉふぉ、と笑った。
「だって、一人より二人、二人より三人ですよー♪」
備え付けの食器をパタパタと用意しながら、ティータが応える。
「そうか・・・?」
一人の時間の方が長かった身としては、判るような判らないような話である。
しかし、妹が居た幸せだった頃を思い出せる点で、ここは居心地が良かった。
「そうなんです!
はい、アガットさん。お土産のアイスですよ♪」
ぽんと皿と匙を渡されて・・・その上にのっていたのはアイスクリーム。
・・・う・・・甘そうだ・・・。
「すっきりしてて美味しかったんで、食べられるかなって買ってきたんです。」
ティータがほんわりと微笑む。
「おぅ、ありがとうな。」
つられて笑顔を返した。
「大丈夫じゃよ。今時はやりのシュガーレスらしいからの。」
博士もにこやかである。その笑顔には。
・・・大丈夫だな。多分裏はない。
この部屋の向かいに居るであろう新米遊撃士の、どこか裏のある笑顔を思い出してつい警戒してしまうのだが、その必要もなさそうだった。
いただきます、とつぶやいて、一口。
「・・・へぇ。確かにうまいな。」
もう一口。
ティータの顔がぱっと明るくなった。
「えへへ・・・喜んでもらえてうれしいですっ。」
「おぅ。ありがとうな。」
甘いものにも色々あるんだな、と感心してしまったところで、こちらを見つめる視線に気がついた。
「そういえば、お前は食べないのか?」
「えっと・・・私はお昼に食べましたから。」
しかし、見つめられて食べ物を食べると言うのはなんとも落ち着かない。
「お前も食えばいいのにな。
一人より二人より三人なんだろ?」
「そうですけど・・・それだけしか買ってこなかったので・・・」
「ガキが遠慮すんな。」
ほら、と差し出すと、ティータはちょっと困った顔で匙をとってアイスを口に運んだ。
ゆっくり味わって、ほぅ、と幸せそうな顔になる。
よっぽど味覚に合っていたらしい。
・・・アイス一つでここまで浸れるってのも・・・幸せな奴だ。
「うまいだろ?」
「はいっ。
えへへ・・・ありがとうございましたっ。」
ティータがうれしそうに微笑んだ。
部屋を流れるゆったりした時間。
「・・・・・・?」
ふと、ハーモニカの調べが聞こえてきた。
小さい頃をなんとなく思い出させる・・・どこかで聴いた事のあるメロディ。
「ほぅ・・・見事なもんじゃの。」
博士が感嘆したようにつぶやく。
多分、上のほうで誰かが吹いているのだろう。
「綺麗な曲・・・。誰が吹いてるんでしょうね。」
「さぁな。」
そのまま、ハーモニカの音に耳を澄ませる。
どこか幸せな一時は、静かな部屋に響くハーモニカの音と共に過ぎていくのだった。
一応、ED近辺のお話です。ヨシュア&エステル出てきません。だけど、本編大ネタバレ。クリアした人は、きっと別方向に想いを馳せる羽目になると思われます。
しかし・・・こうやって書いといてなんですが、アガットうらめやましいかも・・・。