Falcom TOP

紅一点の夜

『シャムシール団はチブリに居るわ。』
・・・と、妙に偉そうなお嬢さん・・・ミューズの言う事に従うような形で、
彼ら・・・アヴィン、マイル、マーティとミューズの四人は一路チブリを目指していた。
ほっといて状況がよくなるような事態ではない。
急ぎたいのは山々である。


しかし。


「日も暮れたな・・・」
アヴィンは辺りを見回した。
「まあ・・・王都を出たのも昼過ぎだったからね。」
マイルがうなずく。
「これでも、大体半分行ったかどうかだろう。チブリにつくのは明日だな。」
マーティも、ふぅ、と息をついた。
「じゃ、休めそうな場所探すか。」
「そうだね。」
「やれやれ、やっぱり今夜は野宿か・・・」
野宿、という言葉を聞いた途端ミューズが反応した。
「他に、方法はないの?これは一刻を争うのよ。」
「といわれても・・・」
「この辺に集落はないはずだし、チブリにはどう転んでも明日までかかるし。」
「徹夜で歩いてシャムシール団の前で倒れちゃ、どうしようもないからな。」
この期に及んで何を、というところである。
さすがにその雰囲気はミューズも感じ取った。
・・・ここで、世間知らずだのなんだのと思われるのは避けなければ。
出自がばれたりした日には、何もできなくなってしまう。
「あ、い、・・・いえ・・・そう・・・仕方・・・・ないわね。」
・・・ベッドすらない所で寝るなんて・・・しかも雑魚寝・・・
とはいえ、仕方ない事なのだ。
それに、これぐらいは・・・覚悟は、まあ・・・して当然である。
ミューズはしぶしぶ了解したのだった。


魔獣避けも兼ねた焚き火が、ちろちろと燃えている。
それで簡単な食事を取り終わると、アヴィンはぐっと背を伸ばした。
「って、と。食うもん食ったし、そろそろ寝とくか?」
「だね。今日は色々あったし。」
言いながら、マイルは身につけていたマントをはずす。
「ありすぎた気もするけどね。うー・・・ん、今日はさすがに疲れたな。」
マーティも背を伸ばすと、てきぱきと自分のマントをはずした。
「ミューズも休めよ。明日も歩くんだからな。」
言いながら、アヴィンは自分の荷物を枕にしてひっくり返ってしまった。
「それじゃ、お休みなさい。」
マイルも自分の荷物を枕にしている。
そしてアヴィンの隣に行くと、マントを二人前の掛け布代わりにして転がった。
「君達は・・・何気に僕に見張りを押し付けようとしてないかい?」
マーティは、苦笑しながらマントに包まると荷物を抱えて木の幹に寄りかかる。
「あ、すみません。見張り、僕達が・・・」
マイルが立ち上がろうとすると、アヴィンがマントを引っ張った。
「まあ、そういうなって。後で起こしてくれたらいいからさ。」
よっぽど疲れていたのか、そのまま目を閉じてしまう。
「アヴィン・・・・・っ。」
マイルがマントを引っ張り返そうとすると、マーティはパタパタと手を振った。
「・・・まあいいよ、お休み。」
「すみません、2,3時間したら代わりますから。」
「ああ、そうしてくれるとありがたい。」
マントがもぞりと動いて、アヴィンが顔を出す。
「・・・ありがとう、マーティさん。」
そのまままたパタとひっくり返ってしまったアヴィンを、マイルは睨んだ。
が。
「ありがとうございます・・・どうもすみません。」
仕方ないな、というため息をつくとマイルも寝そべってしまった。


この間、実に10分かかっていなかったりする。
「・・・・・・・・・・・・」
そして、そこまでの様子をあっけに取られつつ見ているものが一人。
ミューズである。
「おや、ミューズは寝ないのかい?」
「・・・・・・なんで、皆こんな高速で寝れるの・・・?」
「疲れてるからじゃないのかい?」
「それだけで片付けられる問題なの?」
「じゃあ、他に何があるというんだい?」
「それは・・・・・」
特にない、気がする。確かに。
しかし、絶対に何か釈然としない。
「でも、・・・・この敷布もない状況下で瞬時に眠れるなんて・・・」
「旅だったら当たり前だろう。彼らもそれなりに旅はしてきてる様だから。」
マーティの言葉は至極あっさりとしていた。
「そういうもの・・・なのね。」
そして、確かにもっともな事ではあった。
「ところで、見張り・・・私がしましょうか?」
「いや、いいよ。女の子に見張りをさせるわけにはいかないしね。」
「・・・でも。」
「旅、慣れてないんだろう?ゆっくり休んだ方がいいよ。
 見張りは、なれてる僕らがやるから。」
「そう・・・じゃあ、悪いけど・・・お言葉に甘えるわね。」
ミューズはおとなしく、お休みなさい、と横になって、・・・ふと、起き上がった。
「・・・あ、そうだわ。
 あなた、まだ寝ないのだったら、そのマント私に貸してくれないかしら?」
「え?」
「まさか、レディを何もなしに寝かせるつもりなの?」
確かに、ミューズはマントの類は一切身につけていない。
「・・・・・仕方ない、か・・・」
それぐらいの用意はしてくれよ・・・という呟きが聞こえたような聞こえないような。
マーティはマントとの別れを惜しむかのようにきゅとマントを抱きしめる。
「・・・・往生際が悪いわよ。」
「はいはい。ほら、どうぞ。」
マーティは、しぶしぶマントをミューズに渡した。
「わるいわね。」
ミューズは少し考えて二つにマントを折ると、その隙間に滑り込む。
そして半身を出して、マーティに笑いかけた。
「ありがとう。」
「・・・・・どういたしまして・・・。」
今のは、どう見てもご満悦の微笑だよなあ・・・
などとマーティが思ったかどうかは定かではない。
ただ、彼は深々とため息をついて焚き火の方に向き直ったのだった。


・・・うう・・・なんか、固いわね・・・
「・・・で、マントを取られてたんですか。」
「うん・・・まあ、仕方のないことだけどね。」
「マーティさんも災難だよなあ・・・」
「アヴィン、その原因は君が半分作ってたんだよ。わかってる?」
・・・ちょっと・・・寒いのかしら・・・???
「うぐっ・・・
 えーっと・・・マーティさん、ごめんな。」
「いいさ、これぐらいならね。
 ・・・さて、君たちも起きた事だし、僕はもう寝かせてもらうよ。」
「マーティさん、よかったら僕の使いますか?」
「・・ああ、ありがとう。でも、いいよ。それは君たちが使ったらいい。」
「でも・・・」
「そんなに寒いというわけではないし」
・・・・・・必要、ないの・・・・??


「・・・マント、貸してくれないかしら・・・???」
ほのかに寝ぼけた声がした。
「うわっ・・・ミューズ、起きてたのか?」
しかし、ミューズはそれには答えない。
「貸して、って・・・言ってるのよ・・・」
そのまま、ふらふらと手探りでマイルのマントをつかんで引き寄せる。
「あの、ミューズ?」
「・・・・・・・・・。・・・・」
敷布にマーティ、掛け布にマイルのマントを使うようにして、ミューズはそれきり静かになった。
「おいっ!」
アヴィンはミューズが取ったマントに手を伸ばす。
しかし、それにはマイルの制止が入った。
「まって、アヴィン。寝てるみたいだし、このままにしといてあげようよ。」
「思うに、さっきのもただ単に寝ぼけてただけのようだしね。」
マーティも合いの手を入れる。
「起こすのも悪いよ。」
「・・・でも・・・」
「相手は、女の子なんだし。」
「うっ・・・・ん・・・そうか・・・」
アヴィンは出した手を引っ込めた。
「あきらめが肝心という言葉もあるわけだしね。」
言いながらマーティは、ふわぁと欠伸する。
「・・・さて、今度こそ僕は寝るとするかな。後は頼んだよ。」
『あ、はい。おやすみなさい。』
二人の声が重なる。
「ああ、お休み。」
それを聞くとそのまま、マーティはころりと横になった。
ほどなく、気持ちよさげな寝息が聞こえてくる。
「・・・ミューズの奴・・・」
「はいはい、文句言わないの。
 どっちにしろ今から見張りだったんだからね。
 それにしてもマーティさん、気の毒だったね。」
「全くだな。
 ・・・・俺達も・・・」
「・・・・未練がましいよ、アヴィン。」
「はいはい、わかったよ。」
「ハイは一回でいいよ。
 さて、と。魔物がこない事を祈りながら暇つぶしだね。」
「そうだな。」
こうして、のんびりとチブリ街道の夜は更けていくのである。


翌朝。


「ん・・・・・・?」
真っ先に目覚めたミューズは、自分の上にもう一枚のマントがかかっているのに気が付いた。
・・・あら、マイルの?・・・掛けてくれたのかしら・・・?
   後でお礼を言っておかないと・・・。
身を起こし、背を伸ばしたミューズに、朝日は優しく笑いかける。
そして、また旅の一日が始まるのである。


******
「マイル、昨日の夜はマントを掛けてくれてありがとう。
 おかげで比較的・・・いえ、快適に眠れたわ。」
「いや、・・・えーっと・・・」
「アンタが剥ぎ取ったんだろうがっ!」
「・・・まあ、そうだね。」
「あら、そうだったの・・・???」




会話文多いーっ(汗)ちなみにこれも、数年前の蔵出し。

序盤のチブリに向かうイベント中・・・パーティキャラはマーティとミューズ。
えーっと・・・・とりあえず、WIN版(A TEAR OF VERMILION)ベースですけど。
ミューズがね、後で言うんですよ。
「快適とは言いがたかったけど、貴方達との旅は楽しかったわ」って。
で、快適とは言い難い旅をふっと想像してしまいました。
Falcom TOP