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トマト・ブレイク

ここはバロアの手前、アノール街道。
この街道と言う場所、多少開けた所につくと必ずと言っていいほど魔獣が待ち受けて居たりする。
今も彼ら・・・アヴィンとマイルは容赦なく沸いて出る魔獣の群れとにらみ合っていた。
「うわ・・・数多いね・・・」
「腕ずくでも通る。
 アイメルは、この先に居るんだ。」
「うん、そうだね。何とか通してもらわないと。」
「・・・行くぜ!」
いいながらアヴィンは剣を振りかぶり駆け出していく。
「了解!」
マイルも目の前をふさぐ魔獣にブーメランを投げつけた。


もう何度目かも判らないぐらい、二人で戦ってきた。
小さいころから育んできた信頼と、最近の戦闘続きの道中。
おかげで二人の息はいつだってぴったりである。
多少魔獣が多くても、やる事はいつもと変わらない。
アヴィンが切り込んでいって、マイルが回復する。
黒魔法をどもりながら唱えるアヴィンを、マイルが後ろからブーメランで援護する。
心中「いい加減呪文ぐらいすらすら唱えられてもいいのに」などと思いながら。


かくして、街道の広場から魔獣は退散させられるのであった。


ちょっと一息入れたくなる戦闘後。
「にしても・・・・」
「ん、どうしたんだい、アヴィン。」
「最近は魔獣が増えた増えたって言うけど・・・多すぎないか、これ?」
アヴィンが弱音を吐くのは、はっきり言って珍しい。
が、こちらとしても気持ちは同じだった。
「確かに・・・これはちょっと多すぎる気がするな・・・
 バロアに着く前にへたりそうだよ。」
「そうだよな・・・
 あ、そうだ。良いものがあったんだっけ。」
多少棒読みながら、アヴィンは荷物をごそごそやりだした。
棒読みに気付かないマイルではない・・・が、別に詮索するような事でもないと思った。
「なに?」
「これだ。」
アヴィンが笑顔で見せたのは、いつも使っているレアの秘薬ではなく、ちょっぴりしけった感じの袋。
さらに、中からは何やら異臭もしていたりする。
・・・これか、棒読みの原因は・・・
「なんなのさ、これ?」
「『もぎたてトマト』だ。ほら、ファムさんに貰ったやつ。
 ウルト村のだし、きっと栄養が」
「ちょっとまって。いつの『もぎたて』なんだよ。」
「いつだっていいだろ。」
「よくない。」
きっぱり言うと、アヴィンは言葉に詰まった。
「・・・ほら、『もぎたてトマト』には違いないわけだし。」
「僕達がウルト村を出て、もう数ヶ月経つよね。」
「そうだな。」
「普通、トマトって何ヶ月も持たないよね。」
「その辺は気合でどうにかなるだろ。」
「気合って・・・ならアヴィンが食べなよ。体力は君の方が消耗してるんじゃないのかい?」
「いや、俺はいいよ。マイルのほうが体力ないだろ?」
ガシ。
肩をしっかり抱かれ・・・というか固定され、目の前には数ヶ月前の「もぎたて」トマト。
今に始まった事ではないが、強引である。
「いや、いらないから。」
「そんなこというなよ。いいから食えって。これは俺からの気持ちだ。」
トマトは無遠慮に近づいてくる。
「いらない。気持ちだけで十分だよっ・・・!!」
マイルは目の前のトマトをどかすべく、アヴィンの腕を押し返そうと力を込めた。
・・・が、さすがは冒険者、さすがは剣士。なかなか動いてくれない。
「遠慮するなよっ・・・!!!俺とお前の仲だろ・・・!!!」
「『親しき仲にも礼儀あり』って言うじゃないかっ・・・!!!」
「そんなことっ・・・!!!気にするなよっ・・・!!!」
ぐいぐいぐい。
押したり押し返したりしても、どうにもこうにも分が悪い。
力はあるつもりだが・・・マイルは遠隔攻撃と回復専門なのだ。
直接攻撃を日頃からしまくっているアヴィンに、力で勝つのはかなり骨である。
そして、少しずつ確実に近づいてくる「(数ヶ月前には)もぎたて(だった)」トマト。
嫌ーな臭いが鼻につく。
ちらと見ると、アヴィンのほうは器用に顔を背けているらしい。
・・・うぐっ・・・・・・
   でもっ・・・このトマトを食べさせられるのは・・・!!!!
絶対ごめんだと思った。なにがあろうとも。
・・・・・と、ふと頭の中に天啓がひらめいた。
人間切羽詰れば、かなり卑怯な事だって思いついてしまうものである。
そして、今は何があってもここから逃れたかった。
鼻が曲がる。回復どころか下手すると中毒しかねない。何よりこんなもん食べたくない。
「アーヴィーンー・・・!!!僕が嫌がってるのわかってるよねっ・・・!!?」
「・・・・・・・・・!!!」
それには答えは返ってこなかった。そして、トマトは近づいてくる。
つまり・・・当然ながら判っている、ということである。
「・・・人が嫌がることはっ・・・!!!しちゃいけないんだよ・・・!!!」
「・・・俺はっ・・・!!
 ただ単にっ、トマトをお前に食わせてやろうとしているだけだっ・・・!!!」
・・・ふーん・・・情け無用という事だね、アヴィン。
「・・・そうかいっ・・・!!!」
そして、マイルは最終兵器を口にした。
「でもこれっ・・・君の妹がっ・・・アイメルが見たらっ・・・!!
 なんていうだろうねっ・・!?」
アヴィンの動きが、ビシィッ・・・と効果音とともに止まった。
『アイメル』という名前の効果はやっぱり絶大である。
・・・勝手に引き合いに出しちゃってごめんね。
心の中で、まだ会った事のない・・・アヴィン曰く天使の様に可愛いアイメルに謝りながら。
アヴィンにとって、あまり触れるべきではない所をつついた事をちょっと反省しながら。
マイルは、アヴィンが固まっているうちにてきぱきと彼の腕から脱出した。
・・・ふぅ・・・
勝利感は微妙だ。
とはいっても、背に腹は変えられないのであった。
「アイメルに会った時、恥ずかしくないお兄ちゃんでいないとね。」
「・・・ああ、・・・・・。で、これは・・・」
アヴィンが往生際悪く指したのは、先ほどの異臭を放つ「(元)もぎたてトマト」。
・・・そう言えば、食べ物は大切にしろってレミュラス爺さんよく言ってたもんなあ・・・
捨てきれないのもわからないではない・・・が、食べたいとは絶対に思わない。
「・・・トマトは、・・・ファムさんには悪いけど雑草の肥やしになってもらおう。
 それともアヴィン、食べるかい?」
「いや、いい。ファムさんには悪いけど・・・肥やしになってもらおう。」
アヴィンは、素直に袋を道の脇に空けた。
それを確認してから、マイルはうんしょ、っと背を伸ばす。
「じゃ、これで一件落着だ。
 ・・・もう、行くかい?」
「ああ、そろそろ行こう。アイメルが待ってる。」
「今度こそ会えるよ。」
「もちろんだ。」
荷物を持つと、休憩時間は終わる。
そして、彼らの旅は今日も続くのである。
・・・昔守れなかった、遠い面影を求めて。



実は数年前の蔵出し。
アヴィンとマイルの旅道中。
多分、探せばこのネタありそう・・・私は見つけられなかったけど。(だから書いてみたんだけど)
アイテムにあるんです、「もぎたてトマト」って。
序盤のイベントで貰うんです。で、回復アイテム扱いで、いつまでたっても「もぎたてトマト」。
旅は1年ぐらいかかったらしいのに・・・ちなみに、アノール街道は中盤の道。
EDぐらいの時期で書いたらギャグ度はアップですが、話的にそれどころじゃないんですよね。
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