「シャーラ、シャーラっ!いい情報持って来たぜ!」
酒場のほうに出ていた男が、盛大な音を立てて宿屋の一室に駆け込んできた。
さらさらの金髪に青い瞳、態度はともかく、黙っていれば絵になる美青年である。
「あのねえグース・・・もうちょっと静かに出来ないのかい?」
シャーラと呼ばれた女は変装道具をしまいこみながら扉の方を振り返る。こちらもやはり美しい。栗色の長い髪が日の光で艶めいて、思わず息を呑むような光景である。
「それどころじゃねぇんだって!」
しかし、そんなお互いの美しさも、慣れだか気にしていないのか。グースはお構いナシでシャーラに詰め寄る。
「・・・まぁいいか。
で?どういう話なんだい?」
全く聞こうとしていない相方にため息をつきながらシャーラはグースに身体を向けた。
「この町の真ん中の方にあるでっかい邸宅あるだろ。
あそこは商人の家なんだが、なんでも今度でかい商談があるらしい。
結構な金が動くんだが、札束入りのカバンはどうやらもう用意されてるらしい
今は警備員が張ってるからな。
警備員は二階奥の旦那の寝室の隣にいるから、きっとそこが金の部屋だ。
な、な?いい話だろう?!」
それは、確かに、グースが仕入れてきたにしてはいい情報だった。
「やるじゃないかグース。あんたもやれば出来るんだねぇ。」
シャーラは軽く口笛を鳴らす。
「ふっ・・・俺に掛かればコレくらい朝飯前さ!」
「あーはいはい、調子に乗るのは後にしときな。」
シャーラは、ふんぞり返るグースにぱたぱたと手を振ったのだった。
計画は以下の通り。
そして、新月の日がやってきた。
シャーラは吟遊詩人として邸宅に招かれることに成功していた。
持ち前の美しさと声で素性も何も疑われる事はなかったあたりが、才能という奴かもしれない。
夕食の際に一つ歌って、その後は邸宅の一室に泊まる事になり・・・ここまでは予定通り。
・・・あとは、グースがへましなけりゃいいんだけどね・・・。
ドジな相方のことを考えて深々とため息をつくが、まぁ始まったものは仕方ない。
これからの予定は、深夜まで待機、である。
一方グースの方は。
深夜まで待機・・・はこちらも変わらない。
塀を上り下りするための縄の調子を確かめて、進入経路・脱出経路も確保する。
「よし。完璧だぜ!」
そして、大金を手にすることだけを考えつつ、こっそりと邸宅の影に潜む。
いい具合に風も出てきた。これなら多少の物音でも気づかれる可能性が減るだろう。
シャーラの部屋の明かりが3回瞬くと、作戦開始である。
グースは音も立てずに塀に縄をかけると、するすると登って木に身体を隠した。
ざわめく風の音はやはりそれなりにいい隠れ蓑になっているようだ。
窓の錠は薄刃のナイフを下から差し込んで開ける。
思ったより簡単な錠で、少し手ごたえを感じなかったのだが・・・まぁ、楽で悪いことはない。
暗闇の中半手探りでカバンを探す。
音をなるべく立てないように。
シャーラは時間と共にふらふらとしているのを装って警備員の方へ向かった。
「広すぎて迷ってしまったのです・・・
済みませんが私の部屋まで案内を頼めませんか?」
少し火照った顔と、とろりとした表情、上目遣いに見上げる目線。
少し声のトーンを上げているのに、警備員がどぎまぎしてるのが見て取れる。
シャーラとしては思いっきり笑いたいところだが今は仕事中。
「あ、あぁ・・・えーっとだな。
俺はここを離れる事が出来ないわけで・・・その・・・。」
「あぁっ・・・!
でも、このままでは、私は部屋に戻る事ができません・・・。」
シャーラは、また少し声のトーンを上げた。
・・・実は、後ろの部屋で作業しているはずのグースの物音を気づかせないため、だったりする。
「うーん・・・少しだし、まぁいいか。
貴方の部屋まで案内するから、付いてくるといい。」
困った顔つきのまま、意外にお人よしだった警備員は持ち場を離れて部屋まで案内してくれた。
・・・よし、うまくいったわ。
「ありがとうございました。お陰で助かりました。」
「いや、コレくらいならお安い御用さ。」
警備員に丁重に礼を言うと、シャーラはあてがわれた部屋へ戻っていった。
・・・さーて、あのドジはうまくやってんのかしらね。
ドアの外から聞こえてくる声と遠ざかる足音。
どうやらシャーラはうまいところ警備員の気を引いてくれたらしい。
グースは胸をなでおろしながら目をつけたトランクを抱え込む。
・・・これか?
それなりに重くてそれなりに軽い・・・。
そして、お目当てのトランクを抱えて木に飛び移った。
・・・よっと・・・!?
一歩踏み出す。
みし、と嫌な音がした。
二歩目を踏み出す。
ビシィっ・・・!!・・・と、とても嫌な音がした。
そして3歩目を踏み出したとき。
ボギィっ!!!
ドンガラガッシャーンっ!!
物凄く嫌な大騒音と共に彼の身体は木の下へ転がり落ちた。
衝撃でトランクも口を開けている。
「っってぇ・・・」
身を起こしたところで、邸宅に明かりが続々とともっているのが目に入った。
物凄い音で、邸宅は一気に目を覚ましたのだ。
こちらの方にも騒ぎの声が聞こえてきだした。
・・・やべぇ!!
痛みをこらえてトランクを適当に塀の外に放り投げ、自分もかけていた縄を使ってすばらしい速さで塀を越える。
そのままグースは夜の街に消えて行く。
空いたトランクからこぼれたお札が風に乗ってひらひらと夜の街に飛んでいった。
そして。
「ふぅ、危なかったぜ・・・だが、俺って天才だよな♪今回はうまく行ったぞ・・・・。」
一息つける合流地点は隣町の宿。
部屋に入って一息つく。
「うん、上出来上出来〜っと。」
20枚くらい落としてしまったが、そこはそれ、この量の前ではたいしたことはない。
ささっと金貨に換金してしまえば、数年は遊んで暮らせそうである。
「ふっふっふ〜♪さぁーて。顔を見せてくれるね札束ちゃんv」
にやけ笑いが止まらない。
グースは鼻歌交じりに早速トランクを開けた。
中に入っていたのは、札束・・・ではなく、手書きの紙束だった。
「?これは・・・?」
一枚手にとって内容を読んでみる。
二枚目、三枚目・・・グースの表情はどんどん引きつっていった。
「ちょっとまて、なんだこれは!?」
『はじめて貴方に会ったときからこうなる事はわかっていました。
きっとこれも定めでしょう・・・
私は貴方についていきます。これからもずっと。 アリチェル』
きっとこれも定めでしょう・・・
私は貴方についていきます。これからもずっと。 アリチェル』
『君の笑顔を思い浮かべるだけで、全世界がバラ色に輝く。
あぁ、これが恋なのか。
この想いの何万分の一かも君に伝わればいいのだが。 リモン』
紙に書いてあるのは、目を背けたくなるような愛の言葉の数々。あぁ、これが恋なのか。
この想いの何万分の一かも君に伝わればいいのだが。 リモン』
どれを見てもどれを見ても。
「なんでこんなもんを後生大事にトランクにいれてるんだああああああああ!!!!!」
彼の叫びは遠くはかなく消えていくだけだった。
翌日。
「ふーん、ほーぅ・・・・それで、今回も稼ぎナシ、と・・・。」
件のトランクと手紙を見たシャーラは、低く・・・低くそう呟いた。
纏うオーラがとても怖い。・・・完全に怒っている。
「えーっと・・・シャーラ?」
「・・・・・・アンタのドジには愛想尽きたよっ!コンビ解消ッ!!」
読んでいたラブレターをテーブルに叩きつけて、シャーラはグースを置いてすたすたと部屋を出て行く。
「待ってくれよシャーラっ!
まさかトランクにあんなのがごっそり入ってるなんて思わなくてっ・・・!!」
グースはその背中に情けなく縋る。
組み合わせだけは絶世の美女と絶世の美男子のなのだが、これではとても絵にならない。
それでも・・・これが彼らの日常風景。
その後しばらくして、通りがかったある巡礼の旅人が宿屋で聞いた噂話。
「あの商人さんのところの夫婦は年甲斐もないほどにラブラブらしいな・・・」
「町中にラブレターが撒かれたって話だろ。一体誰がやったんだろうな・・・」
それを聞いた少女が目を輝かせる。
「へぇ、ロマンチックね・・・ね、ジュリオ。」
「そうだね、クリスには似合わないけど。」
少年は、ほのぼのと地雷を踏んでしまったらしい。
「なんですって?」
クリスの表情に怒りが混ざる。
「あ、わ、えーっと・・・!!」
ジュリオが失言に気づいても・・・もう遅い。
「ジュリオ?それは一体どういうつもり!」
「あ、わわ・・・く、クリス。ごめんなさいー!!」
・・・これも、もう一つの日常風景。
しかしながら、その噂の陰にどこかの知り合いが関わっていたということなど、もちろん彼らは知る由もなかったのだった。
ある意味白き魔女発売記念(笑)ただ単に、同じ時期に話が思い浮かんだだけなんですけど。
えーっと、レア度高いといえば高いグース&シャーラコンビのお話です。私の白き魔女の思い出は、この二人と半ズボンと王様あたりの前半組で成り立ってて・・・(遠い目)
後半組も好きですし、話の展開は泣けると思うんですけど・・・前半組のあのほのぼのが絵本みたいで好きだったので(笑)
ところで。あの世界は金貨・銀貨・銅貨の世界だよな・・・!!とか思いつつ札束だしました。イメージ崩された方いらっしゃったらすみません。
物語中ではっきり言われてるシーンを覚えてなかった事もありますけど、まぁ、あれだけ国があるんだし・・・アンビッシュとか治安のいい国だったらもしかしたら紙幣も使われてる・・・かも?位で。深く考えないでやってくださいませ(汗)
えーっと、レア度高いといえば高いグース&シャーラコンビのお話です。私の白き魔女の思い出は、この二人と半ズボンと王様あたりの前半組で成り立ってて・・・(遠い目)
後半組も好きですし、話の展開は泣けると思うんですけど・・・前半組のあのほのぼのが絵本みたいで好きだったので(笑)
ところで。あの世界は金貨・銀貨・銅貨の世界だよな・・・!!とか思いつつ札束だしました。イメージ崩された方いらっしゃったらすみません。
物語中ではっきり言われてるシーンを覚えてなかった事もありますけど、まぁ、あれだけ国があるんだし・・・アンビッシュとか治安のいい国だったらもしかしたら紙幣も使われてる・・・かも?位で。深く考えないでやってくださいませ(汗)
*警備員は、内側から誤魔化せばいいだろう・・・これはシャーラの役割。
*グースは外から忍び込むこと。幸いというか無用心にもというか、件の部屋の窓のと塀の間には大きな木があったりするので、そこからカバンごと逃げられるだろう。
*決行は目立たないように2日後の新月の夜。