「・・・参ったなあ」
アサルトライフルを一発ずつ当てながら、葉佩は舌打ちをする。
目の前にはなにやら化人。ゴーグル越しのデータを見る限り、HPは全っ然減っていない。
「こいつの弱点どこだと思う?」
頭、肩、腹、ヘソ、眉間。ちまちまと当てながら、葉佩は連れに声を掛けた。
「俺が知るか。」
連れこと皆守の反応はにべも無い。
「後、ありそうなのは背面かな。」
もう一人の連れの取手が控えめに言った。
「なるほど背面か。さすがにかまちー頼りになるなあ。」
「君の役に立てていれば嬉しいよ。」
心なしかホントに嬉しそうな取手に、葉佩は、にっと笑いかける。
んじゃ、と背後に廻りかけたところで敵が動き出した。
『敵影移動』
H.A.N.Tの電子音声が警告する。
「げっ。」
「もたもたしてるからだろ。」
冷たく突っ込む皆守にぐっと声を詰まらせつつ、葉佩は懐からライターを取り出した。
「まあそういうなって。ほら」
ホスト並の手際でライターの火を差し出す。
「お、気が効くな。」
皆守は、手に持っていたアロマにその火を点け、大きく吹かした。
「アロマがうまいぜ・・・」
「そりゃよかった。」
そうこうしている間にも化人はどんどん近づいてくる。葉佩は気付かれないようこっそりと皆守の背後に身を屈めた。取手にも目で合図して同じ場所に屈ませる。
ギシャァァアッ!
化人が勢い良く噛み付いてきた。
「あー・・・・眠ぃ・・・」
うつら、と皆守の上体が大きく揺らぐ。化人の渾身の一撃は何も無い空間を空しく通り過ぎた。
「ん?葉佩、どこだ?」
皆守の視線が前方をふらりと彷徨う。そんな中、化人は一瞬何があったのかわからない、といった感じでこちらを見て、・・・気を取り直したのかもう一度飛び掛ってきた。
「ったく・・・ふわぁ・・・・眠・・・」
また上体が揺らぎ、すかっと気持ちよく攻撃が外れる。化人は跳躍した先に顔面から着地した。
敵が噛み付こうが飛びかかろうが、おかまいなし。非常に眠そうなその背後では、苦笑いの取手の側で、葉佩が「よしっ」とこっそりガッツポーズをしている。
『移動してください』
H.A.N.Tが攻撃のタイミングを告げる。音声が聞こえたのか、皆守が振り返った。
「なんでそんなとこに居るんだ?」
「気にするな。」
葉佩は今度こそ敵の背後から、なんだかあやしい刺青目掛けて弾を撃った。ゴーグル越しのデータでガスッとHPが減る。
「おっしゃ!かまちーありがとー!」
そのまま弱点目掛けて乱射。敵はあっという間に沈黙した。
『敵戦力低下。安全領域に入りました』
H.A.N.Tの声に、取手と葉佩はほっと息をつく。
「なんだ?もう終わっちまったのか。」
最初から弛緩し切っていた皆守が、ダルそうに、微妙に残念そうに言った。
「おう。かまちーの読みが大当たりでな。楽に終わってよかった。」
「なっ」と取手の肩を叩く。
「ありがとう。でも、一番は皆守くんがうと・・・」
取手が全て言う前に、葉佩はその口を押さえた。
「俺がどうかしたのか?」
「え、あ、お、お前って頼りになるよなって話だ。なっ、かまちー」
「あ、うん、そうだね。」
少々驚いたような慌てたような感じで取手がこくこくと頷く。
「?」
「ほら、お前って居てくれるだけでも役に立つからさ。生物関係とか特に。
俺、お前に安眠枕とかドリエルとか抱き枕とかクッションとか羽根布団とか渡したいくらい頼りにしてるから。」
あわあわとまくし立てて、さいごに一言。
「だから、これからも、よろしく頼む。」
ほろほろと零れた本音を取り消すように、愛を込めた思いっきりの笑顔でぎゅっと手を握った。葉佩としては精一杯のごまかしである。
「・・・お前、なんか気持ち悪いぞ。」
「そ、そうかっ?あ、さっきの化人に当てられたのかもな。じゃ、さっさと片して寮に帰るか。」
葉佩は、取手を促していそいそと先に向う。皆守としても、さっさと片付けて戻りたいのはまあ同感だった。
「ふぁ・・・眠ぃ・・・」
一つ伸びをして、先に行く二人の後を追う。
時刻は深夜帯に差し掛かっていた。
その後。
「(かまちー。
避けてくれて助かるとか、うとうとしてるのが頼りになるとか、盾代わりいつもありがとうとか、思ってても皆守に言っちゃダメだぞ。背後に隠れてるのバレたらつまみ出されるから。)」
「(いや、僕はそこまでは・・・)」
「(うん、かまちー優しいから、そこまでは思ってないかもしれない。
でも、これ結構死活問題なんだ。協力してくれ。頼む。)」
「(あ・・・うん、君がそういうのなら・・・言わないよ)」
「(ありがとう。)」
こんな会話がこっそりと繰り広げられていたことを、話題の当人は、もちろん知らない。
ニニギ戦とかね、背後で念じてたよ「うとうとしてくれー!!」って・・・。
おかげでこんなイメージ染み付いてます。
最初あった葉佩の割とクールなイメージもこれがあるから結局オバカのヘタレで落ち着きつつあります。
黙して語らずというより、語れず。語った日にゃ殺される。あの冗談蹴り(攻撃力1470)で。