ゼムリア大陸中西部、レマン自治州。
オーブメント技術が遅れているこの地域にラッセル夫妻はいた。
オーブメントを普及させる為だ。
「あなた。ティータから手紙が届いたわ」
「おお、そうか」
夫は作業の手をやめ、妻から手紙を受け取って読み始める。
手紙の主な内容は、リベールのクーデター事件に娘ティータと義父ラッセル博士に起きたことだった。
黒いオーブメント。導力停止現象。さらわれたラッセル博士を救ったが、情報部に狙われてたので遊撃士に守られながらあちこちを逃げ回っていたこと。
そして、王都グランセルでの出来事。クーデター事件は、一応は解決された。
……手紙の中に、遊撃士の名前が多く出ていた。
エステルとヨシュア。ティータにお姉ちゃんとお兄ちゃんができたこと。
娘と義父の身を襲った危険に心を痛めたが、その事件の最中に遠い地にある娘の孤独を癒してくれる存在が出来たことに彼は安堵した。
……そこまではいいとして。
「『アガットさん』とは何だ、『アガットさん』とは……」
「あなた。眉間に皺が寄っているわ」
妻からも指摘されたように、夫はそこはかとなく不機嫌だった。
――手紙の中で一番多く使用されている単語が『アガットさん』だった。
――コイツは敵だ。
ブレイサーとして培った勘が、警鐘を鳴らしていた。
何より、一人娘を持ち溺愛する父親として大変面白くなかった。
※※※
それ以降も、娘の手紙には必ず『アガットさん』の話題や単語は必ずあった。
娘の手紙に喜びながらも、彼がその度に機嫌が悪くなったのは言うまでもない。
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