「あ、あ、気が付いた。」
視界が、身体からのものに変わる。
「青森、だいじだべ?」
「だいじけ??」
困ったように、心配そうに覗き込む身内の顔にようやく少し人心地がつく。
「ん、だいじだ。」
「ほら、大丈夫だったさあ。」
にこにこ。毛布の固まりみたいなのが、真っ赤な顔で笑う。
「青森、お料理お疲れ様あ。おいしかったさあ。」
毛布の固まりは、どうやら沖縄らしかった。
「あ……はい、その……」
「そういう時は、どーいたしまして っていうだけで ひゃあ!」
ととと、とこちらに来ていた沖縄は、言いながら毛布を踏みつけてバランスを崩す。
「あ、あぶねえ!」
反射的に体を起こして抱きとめると、沖縄はぽんと胸の中に飛び込むように転げてきた。
ぽいん、とボールをキャッチしたような感触が腕の中に来る。
「あははは、にひゃーでーびる青森。」
「だいじだ……だいじょうぶですか?」
「だいじよー。」
身体を起こそうとした沖縄は、ん、と一瞬止まってまた青森の腕の中に潜っていく。
「な、なんだべ!?」
「青森、中はあったかいんだねえ。鹿児島よりよっぽど寒くないー。」
「へ?」
「鹿児島だけじゃなくて、九州みんな、暖房は甘えとでも思ってるのか中結構寒いのさあ。」
青森はぬくぬくだー、と幸せそうにしがみついてくる。
振り払うわけにもいかず、ひとまず抱きとめていると、愛媛達が和やかに笑った。
「沖縄ちゃん、あったかいとこ見つかってよかったねえ。」
「うんー。」
「寒い寒いって言ってたけんのお。」
「うんー。」
返事をしながらべったりとくっ付いてくる。それはもう、完全に自分の場所は決めたという体だ。
困惑のまま、仕方ないので抱き上げる。
「あー。こんな薄着なのに、なんでこんなにあったかいの?」
もきゅうっとくっ付いたまま沖縄が首をかしげた。
「へ?おらもそれなりに厚着はして……ます。」
「うちなーんちゅ、5枚は着てるんだけど。あと毛布とマフラーと。」
まるまると着ぶくれているが、中身はあまり着ていなかったらしい。
「おらはもうちょっと着てるべ?」
「え?だって全然薄い。」
「薄いのを重ねるほうが、厚いのを重ねるより動きやすくてあったかいべ。」
ほら、と袖の所を数えてやると、おおお、と沖縄は目を丸くした。
「寒くないの?」
「風通さないのと保温さえしとけばだいじだ。」
上はばっちり断熱だし、と言うと、沖縄はさらに目を丸くした。
「青森着やせするのね。」
「おらがとこは、冬うんと寒いから、こういうのは得意になったんだべ。」
「そーかあ。
そうだね、東北って外は寒いもんね。中はあったかいけど。」
べったりくっ付かれるのにもそろそろ慣れたような気がする。
「家も、なるべく断熱保温できるように作ってるべなあ。暖房もケチらないし。」
「きっと居心地いいね。青森はいいとこなんだあ。」
にこにこと笑った無邪気な顔に、思わず目を奪われた。
本日二回目だ。
さっき、震えながら外まで自分を迎えに来てくれた時、あの潤んだ大きな目に一瞬吸い込まれてしまったのだ。
害意なんてカケラもなくて、ただ無邪気で真摯で…あったかい瞳。そこにパニックも緊張も人見知りも、全部吸い込まれて、本音だけが残るのだ。
「うん、居心地好いべ。りんごおいしいし。」
素直に出てきた言葉に自分が一番驚いた。
「うちなーりんごほとんど採れないし、ちょっとうらやましいさあ。」
「りんごだったら、いっぺえあるで送れるべ。来たら来たでごちそうすっけども。」
「本当?にふぇーでーびる。」
ぱああっと目が輝いた。
「うちなーんちゅも、また青森のとこ遊びに行くね。」
だから、あったかくする方法教えてね。
「それくらいなら、お安い御用だべ。」
いいべ、と頷くとぎゅっとしがみつかれた。
胸の中の沖縄をなんとなく撫でる。
そのふわふわの薄い色の髪から、なんとなく遠い南の島のあったかい匂いがしたような気がした。