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うらぎりもの

レン
<EDネタバレ>ED後。レンは池をぼんやり眺めていた。
まさかの設定読み違いに碧でびっくりしたなんていえない(苦笑)

これは正直 クリアした直後から書きたいとおもってた話だったりします。
もうね、なんというかね、レン良かったなお前・・・!!!とそればっかり。
なんだかんだでレンの軌跡だよね、零って。とりあえず、無いに等しかった人生取り戻して欲しいです。
幸せになってくれ・・・!
ぽちゃり。
小さな音は石が水に落ちた音。水面は小さな雫を跳ねさせ、次いで波紋が広がる。

町外れの家だった。
広い庭がついている。その一角には池まであった。池の対岸は小さな林になっていて、時折鳥の声が聞えてくる。
少し前まで居た場所とは比べ物にならないくらい、のどかな場所だった。
ぽちゃり。
また、小石が水におちる。石はまた水面を波立たせて沈んでいく。
ガサガサと木々が揺れた。
風ではない。何か大きなものが動くような音。・・・そして、とても慣れ親しんだその気配。
顔は上げない。ただ、揺れる水面を見つめる。やがて波紋の収まった池に、巨大なロボットの姿が現れていた。
どうやって身を隠していたのか不思議になるとはよく言われるが、特に難しいことでもないのだ。自分たちにとっては普通の事。
何か言いたそうに、それは水面越しにこちらを見つめる。
ぽちゃり。
石を投げた波紋は、水に映るその姿をかき消した。

その名は《パテル=マテル》。
レンが今ここに居る原因だった。

ウィーン、と微かに駆動音をさせて、パテル=マテルはこちらを伺う。
自律運動が出来るようになってから・・・そしてこちらに来てから、パテル=マテルは随分と表情豊かになった。ローゼンベルク老人の腕の良さだろうか。無言の仕草は、パテル=マテルの意思が十分に汲み取れるくらいの饒舌さをもっている。
「・・・返事なんてしてあげないわ。」
落ち着いてきた水面に、また石を投げ入れた。映っていたパテル=マテルの姿が散る。
「・・・うらぎりもの。」
自律運動ができるようになって真っ先にパテル=マテルがやった事。それは、レンの意思とは違う事だった。
「何で、レンの言う事を聞かなかったの?」
水面に映るパテル=マテルは、困ったようにそこに在るだけだ。
「パテル=マテルは、私の言う事を聞いてくれるんじゃなかったの?」
風が木の葉を揺らす。それと同時に低い駆動音。そして、地響き。体勢を変え、パテル=マテルはそこにうずくまる。
「答えなさい、パテル=マテル。」
微かに駆動音がした。その腕と手が動き、レンの傍に着地する。
その巨大な見た目似合わず、動きは優しかった。巨大な金属で出来た指はそっと動いてレンの体に触れる。
わかるだろう。そう言っていた。

・・・わかる。・・・わかってる。わからないわけがない。

「・・・パテル=マテル。あなたはどういう基準で動いているの?」
聞くだけ馬鹿馬鹿しいが、それでも聞きたかった。
ウィーン、と小さく駆動音が応える。
答えは、出逢った時から決まっていた。わかりきっている。『レンのために動く。』それ以外の何もない。
「ここに来ることが、レンのためだとでも思ったの?」
駆動音。そして、優しく動く指がレンをそっと突付く。
そのとおりだ。そう、・・・会話は通じていた。
「・・・レンはそんなこと頼まなかったのに。」
でも、望んでいた。
水面に映るパテル=マテルになんだか苦笑いされたような気がして、小石でまたそれを散らす。


本物の・・・生みの両親は、レンの意思なんて関係なく、レンを置いて出て行ってしまった。それは、両親なりにレンのことを考えての結果なのだと、・・・そう、知った。
パテル=マテルも名前の通り『パパとママ』だ。レンの、大事な。・・・だから、レンの事を考えて動くのだろう。それがたとえ、レンの意思と違っていても。
・・・わかってる。
そういうのを「想われている」というのだ。「愛されている」とか、そんな言い方もあるらしい。
だけれども、そんなものはないと思っていた。こんなに、自分まで泣き出したくなるほどの想いなんて、あるわけがないと。だから、自分の周りにもそんな感情があるのだと気づいたのはつい最近のこと。
ざわりと風が木の葉を揺らす。
「レンー!!ごはんよー!どこ居るのー!?」
家のほうから、高い声が聞えてきた。
・・・エステルの声。・・・今の、レンの家族の声。
「・・・行かなきゃね。」
そう言って、パテル=マテルの指に手をついた。見上げたパテル=マテルはこちらを静かに見つめている。
「わかってるわよ。・・・あなたも、私のことを『想っている』んでしょう?」
ウィィン、と駆動音が嬉しそうに応じた。
「・・・全く。」
そう、肩をすくめて見せる。自分の見せ掛けの動きなど、パテル=マテルにはきっと意味を成さない。だが、それが精一杯の強がりだった。
「・・・ありがとう、パテル=マテル。礼を言っておくわ。」
これでも感謝してるのよ?
そう言って、その指にこつんと額をつける。金属質な感触なのに、どこか暖かい。パテル=マテルはただ黙って、そこに在る。いつだってレンと共に。レンのために。それが、真実。

「レン!はやくおいで!」
ヨシュアの声も聞えてきた。ヨシュアも、こっちに来てからというもの・・・全くにぎやかな事だ。でも、それだって悪くない。優しく笑ってくれるヨシュアはそれはそれでいいものだ。
「今行くわ。」
そう答えて家へ向かう。
「今日もまたお魚のフライかしらね。」
そんな事をつぶやきながら。


・・・ありがとう。ここにつれて来てくれて。
パテル=マテルに。あの特務支援課とやらに。もしかしたら、工房の老人にも。
そして、エステルとヨシュアに。

優しい風が吹いていた。
ここはブライト家。
レンと、レンの新しい家族の住む場所。
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