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アーシェさんと天使さんの話。

Favorite Dearより。
天使はウィーラさん。アーシェやリュンちゃんと仲良し設定。
きりよく切れてるけど結末が無い話。

・・・今日も、もうおしまいね・・・。
夕暮れ時の街中は、どこか急ぎ足で、どこか暖かい。
城にいた頃は、これぐらいの時間になると気が急いていたものだったのだが。
今は気ままな旅の身の上・・・かなりゆっくりしたものである。
だから、街中の雰囲気をしみじみ感じながら歩くこともできるわけだ。
宿への帰りみち。
小路を曲がろうとすると、後ろの方からパタパタと足音が聞こえてきた。
・・・?
なんとなく振り向く・・・と、どこかで見たような緑の髪。
「アーシェ!待ってですっ!」
声もしぐさも胸に抱えた包みも、自分の知り合いであることは間違いない。
「ウィーラ!?」
息を切らして走ってきたのは、普段窓から出入りしている天使。
ただし、羽は見当たらない・・・人の多い街中だから当たり前なのだが。
「どーしたの?そんなに慌てて。」
「宿屋まで行こうと思ったのですけどっ、
 アーシェが見えたので追っかけてきたのですっ。」
少し息を切らせて、それでも包みだけは後生大事に抱えてウィーラは答える。
「はー・・・それは、お疲れサマね。
 で?なんかあったの・・・って、さすがにここじゃマズいわね。」
周りにはまだ人が残っている。
こんな所で、任務だ事件だというのは・・・さすがにイヤだった。
「とりあえず、宿に戻りましょ。話はそれからでもいいわよね?」
嫌といわせる気はなかった。
そして、それは天使も分かったらしい。
「はいっ、りょーかいなのですっ。」
おとなしく頷いて隣につく。
それを確認して、アーシェは宿に続く道を曲がったのだった。


「で。何の用だったの?また事件?」
部屋のソファに腰を下ろして、改めてウィーラに向き直る。
「いえっ、今日はお土産持ってきたのですっ♪」
本来の羽付き姿に戻った天使は、そういって包みからケーキ箱を引っ張り出した。
「アーシェ、確か甘いの好きでしたよねっ?
 美味しい内にって思ったのですっ♪」
好物のケーキを持って笑みこぼれるその姿は、いろんな意味でまさしく天使だった。
「うん、そこに置いといてくれる♪」
夜に食べるのは気がひける・・・のだけど、誘惑にはかなわない。
くるりと棚にむかって、お皿を持ち出す。
「ウィーラも食べてくよね?」
「アーシェさえよければ喜んでっ♪ありがとなのですっ♪」
「それじゃ、二つずつ・・・っと。」
テーブルの上のケーキを器用に切り分けて、お皿に移して。
『いただきます』と声を合わせた。


「最近、お変わりありませんっ?」
ケーキを食べながら、天使が口を開く。
「ん?特に何もないわ。ホント平和なものよ。」
こくん、とケーキをのみこんで。
「ウィーラの方は?相変わらず忙しそうだけど。」
「えっと・・・」
天使は少し首をかしげた。
「・・・とりあえず、事件が1つですねっ。
 それと、後は・・・」
と、何か思い出したのだろうか、天使の頬がすっと赤くなった。
「・・・後は、・・・その。
 えっと・・・そうっ、私事、一つ・・・なのですっ。」
照れている。あの何も考えていなさそうな天使が。
・・・これはつつき甲斐がありそうね。
「何があったの?アーシェ様に話してみなさいっ。」
はぐらかすことも断ることも許さない。
そんな意思は態度で伝える。
「えと・・・あのそのっ・・・」
「私に隠し事は許さないわよ。」
視線の泳ぐ新緑の瞳を見据える。
・・・・・と、観念したらしい。
「・・・・・・・えとですね。
 ・・・地上にっ、そのっ・・・残るって・・・約束してきたのですっ・・・」


・・・・・・・
カラン。
手に持ったフォークが落ちた。
「・・・・・・今、なんて言ったの?」
思考はこの世界よりも混乱している。
「・・・・・・・インフォスに、任務終わっても残るってっ・・・
 その・・・約束、してきたのですっ・・・いつまでも、あなたの所にいますって・・・」
どういうことなのか。
・・・つまり、ウィーラは任務終わっても天界に帰らないって。
   ・・・約束・・・って事は相手がいるってことで。   
   あの照れよう・・・ってことは・・・
もはや、どこから驚けばいいのか分からなかった。
「・・・い、いつの間にそんなことになってたの?」
いつも任務一直線で忙しそうに飛び回っていて。
さらに、そんな気配はかけらも見せていなかった・・・少なくとも自分の前では。
「えと、・・・おととい、その・・・」
「そうじゃなくって!いつの間にそんな相手作ってたのって言ってるのよ!
 大体、何で黙ってたの!?」
思わず、声が大きくなった。
「だって・・・アーシェとも任務とも関係ありませんしっ、話すほどのことじゃ・・・」
「あるわよ!!何、あなたは友達にそういう大切なことも黙っとくような薄情者だったの!?」
ダンッ!とテーブルをたたきつける。
ウィーラが迫力に押されてのけぞった。
「・・・・そのっ・・・・私、そんなつもりじゃ・・・」
「なかったんでしょうね、ウィーラってそういう事できないし。
 でもね・・・」
「でも・・・?」
天使は、恐る恐る聞いてくる。
「少しは浮かれてみるとか、それなりの反応して見せなさい!
 話も態度もいきなりすぎるのよ!!
 全く・・・どこから驚いていいのか分からなかったじゃないッ。」
「・・・・えと、その・・・おどろかせてごめんなさいでしたっ・・・」
ウィーラは、しゅんと黙ってしまった。
謝るポイントが本当に分かっているのかどうかは、よく分からないのだが。
ただ、本当にすまなく思っているらしいことは分かる。
「・・・・まあ、いいわ。このことについては許してあげる。
 そのかわり、質問に答えてちょうだい。」
「え、はいっ、それぐらいでしたらっ・・・」
天使が顔を上げる。
「よろしい。
 じゃ、手始めに・・・相手は誰なの?」
とりあえず、自分以外の5人とも・・・顔だけは合わせたことがある。
内、男4人・・・多分、この中の一人。
「・・・・・・答えなきゃだめですっ?」
「だめよ。さあ、白状しなさい。」
ささやかな抵抗をはねつける。
「・・・・・・・・・・リュドラルさん・・・」
蚊のなく声より小さな声。
「誰ですって?はっきり言いなさい。この期に及んで往生際が悪いわよ!」
「・・・デュミナスの勇者さんですっ・・・!」
耳まで赤くして、そのままテーブルに突っ伏してしまう。
よっぽど恥ずかしいらしい。・・・当たり前といえば当たり前だが。
・・・デュミナス・・・?
確か、竜族に育てられたという勇者がそこの出身だった。
担当地域が近かったせいか、2,3回会っているおかげでなんとなく分かる。

・・・今時信じられないぐらい純粋な。
   しっかりしてそうで抜けてそうな。
   誰がどう見ても良い人そうな。
   そして、とっても爽やかな。

浮かんでくる印象の数々。
・・・すごい組み合わせね・・・
目の前で突っ伏している天使と、その彼の印象と。
あの純粋培養っぷりで、どうやってこの天使を口説いたのかは想像がつかないのだが。
この天使がその彼を口説いている所も・・・想像がつかないのだが。
ただ、・・・・・妙にはまっている気は、する。
「アーシェ、どうしたのですっ・・・?」
思考に、ウィーラの声が割り込んでくる。
「!・・・あ、その、ちょっと考え事・・・
 それより、・・・いつから付き合ってたの?」
けほん、と咳払い。
天使の顔に疑問符が浮かぶ。
「?・・・いつって・・・8年ぐらい前なのですっ。」
「8年ッ!?・・・そんな前・・・って、
 ・・・・聞いてるのはスカウトした時期じゃないわよ?」
よく考えなくても、この天使に勇者になれと持ちかけられたのが8年ぐらい前。
「・・・付き合うって、そんなことじゃないのですっ?
 私、誰とでも平等に付き合ってるつもりなのですけどっ・・・」
・・・そのまま聞いた私がバカだったわ。
意味もさっぱり分かっていないようである。
「・・・いや、そうね、・・・やっぱりいいわ。」   
そして、説明してもわからなさそうな気が・・・ひしひしとする。
・・・この線で質問しても・・・
多分、無駄。天使のボケ具合ではきっと理解できないと思われる。


「・・・なんで、地上に残ろうって思ったの?」
「なんでって・・・残ってくれって言われたからですっ。」
何を当たり前のことを、といわぬばかりの即答。
何か、引っかかった。
「それだけなの?」
天使は首を横に振る。、目が、少し伏せられた。
「・・・・・・任務終わって天界に帰ったら、ここの人達と二度と会えないのは目に見えてます・・・
 もう会えないのは嫌でしたし・・・・」
「ということは、もしも私が地上に残れって言ったら、あなた地上に残った?」
少しの反応・・・そして、静止。
「・・・・・・・・・」
「どうなの?」
もうひとつ、聞く。
激しく、首が振られた。
「・・・・・・ごめんなさい、わからないのですっ・・・・
 ただ、もし残るのならあの人のそばに居たいって思うのですっ・・・」
「迷惑だって言われても?」
畳み掛けるように、聞く。
とたんに、天使が、しゅんと黙る。
「・・・・・やっぱり、迷惑なんでしょうかっ・・・?」
初めて見る、不安そうな顔。
それなのに、驚きよりも・・・なぜか安心してしまった。
「さあね。それぐらい自分で聞いて御覧なさい。
 で、どうなの?」
「・・・・・・迷惑なら・・・私は天界に帰るのですっ。
 不快な思いさせたいとは思いませんしっ・・・
 私がそばに居たいって勝手にそう思ってるだけ・・・なんですから・・・」
言葉の最後の方は、どんどん自信なく、小さくなっていく。
「勝手に?・・・・まさか、その人に『そばに居たい』って一言も言ってないとか・・・」
「もちろん。・・・迷惑だったら、困らせるだけですしっ・・・・」
即答するようなことではない、絶対に。
・・・・不憫だわ。その彼。
きっと、この天使が何を思って地上に残ることにしたのか、
・・・疑問やら不安やらたっぷりあることだろう。
たとえ、『残る』と言ったにしても。

「・・・・行って来なさい。」
きっぱりと言い渡す。
「え?どこにです?」
ウィーラはきょん、とした顔で聞き返した。
「その彼の所にきまってるでしょ!」
なんでこんなに鈍いのか。
話し方から察するに、今に始まったことではないようなのだが。
「・・・・行ってどうするのですっ?」
・・・ほら、やっぱり分かってない・・・
「自分もそばに居たいって思ってるって事、ちゃんと言って来なさい。
 ウィーラって、なに思ってるのか肝心な所が態度に出てないのよ。
 きっと言わないと伝わらないわ。」
自分がいきなりの告白に驚かされたように。
表情はくるくる変わる・・・割に、自分の内面はなかなか出てこないのだ、この天使は。
そんなことに、付き合って何年もたつ・・・・今になって気づいた。
「・・・・そうでしょうかっ?」
しかも自覚症状はないらしい。
「そうなの!私が言うんだから間違いはないわ。
 ほらほら、さっさと行ってらっしゃい。」
強く言って、窓際に天使をせきたてる。
「・・・・わかりましたっ・・・・でも」
「でもも何もないわっ!ほら、さっさと行って彼を安心させてらっしゃい!
 あとでちゃんと報告しなさいよ!」
ほとんど宿屋の窓から押し出すようにして、外に出す。
「じゃあねっ!」
ばたん!
窓を閉める。
と、天使は観念したかのように飛び立って行った。
・・・全く、変な所で世話の焼ける・・・


時間はもうそろそろ夜8時になろうとしていた。
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