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そっと目をそらしたいもの
> 妄想がそのええっと、なもの。 > Star Ocean3 > メルト
メルト
アルベル&ネル
おそらくきっとED後。ボカロで有名なアレをクールな若き死神に適用してみました。
起きる。
出かける用事があった。
顔を洗ってから、クローゼットから服を引っ張り出す。なんとなく気が向いて、いつもとちがう服を手に取った。久々に着たそれは、いつもとは大分違う気がするが、悪くはない。
昨日解いたままだった髪を結う。服同様、なんとなく気が向いていつもと違うようにしてみた。格好なぞ動きやすければどうでもいいというのが身上のはずなのに、珍しい事もあるものだと、我ながら思う。
装備品を一通り身につけて、財布を片手に町へ出る。
日はなぜか高かった。待たせるとうるさそうな気がして、早足で待ち合わせ場所に向う。
「こっちだよ。」
呼ぶ声のする方を向けば、珍しい格好をしたネルが手を振っていた。
淡い色のシンプルな上着に、スラリとした形のスカート。いつもの格好からは偉く印象の違う格好に、一瞬目を疑う。・・・似合ってはいるのだが。
「あんまり珍しい格好してたから、一瞬わからなかったよ。どうしたんだい?」
軽く驚いたように言われると、どこか心が浮き立った。それを表に出さないようにして、息をつく。
「・・・そりゃ俺の台詞だ。そんな格好もできたんだな。」
言うと、ネルは嬉しそうに笑った。
「まあ、気分って奴さ。今日は買出しだけだしね。アンタだってそうなんだろ?」
似合ってるよ、と簡単に言って、ネルは先に歩き出す。追いついて、並んで歩く。目的地は同じだった
。
「近いほうからでいいか?」
「うん。道具屋の方が先だね。」
ネルがひっぱりだした買い物用のメモを覗き込む。ベリィ系20個ずつ、素材20個ずつ、薬草が・・・と、そのメモには購入予定のものがずらりと並んでいた。
「・・・・えらく多いな。」
「だからアンタを呼んだんだろ?頼りにしてるからね。」
軽く肩をたたかれる。・・・つまり、荷物持ちをしろという事のようだった。
「・・・持てる分は持てよ。」
「そのつもりだよ。」
そんな事を言っている間に、目的地についてしまう。店内を出る頃には予想どおりの大量の荷物を抱えることになっていた。そして、次の目的地は武器屋だ。
「持てそうかい?」
ネルが手を差し出してきた。
「これくらいならなんとかなる。」
首を振ってその申し出を断る。
「でも、まだ武器屋まで回るんだよ?」
「テメェは買物に専念してろ。」
まだ、バランスを取らないといけないほどの量ではない。さっさと先に歩き出す。少しして、ネルも追いついてきた。
言葉も少なく次の目的地に着く。
荷物片手に自分の武器を見ていると、ネルが横からひょっこり顔を出した。
「何かいいのあったかい?」
「いや、見たところどれも一長一短だな。お前の方は決まったのか?」
「今買ってきたところだよ。」
嬉しそうに新品の武器を見せる。綺麗な形のそれは、実用一辺倒で軽そうに見えた。聞けば、見た目に反して重さは丁度いいらしく、武器を手にしたネルは上機嫌である。
「そうか。・・・もういくか?」
なんとなく直視できなくて、店の外をさす。ネルが首を傾げた。
「アンタはいいのかい?」
「ああ。」
言葉少なく肯定して、店を出る。一歩外に出たところで、水滴が顔に落ちてきた。
雨の匂い。・・・これは、酷い降りになりそうな気がする。
「おい、」
急ぐぞ、という言葉は、あっさりさえぎられた。
「待って。」
言って、持っていた武器をこちらに預けると、カバンの中から携帯用の傘を引っ張り出す。ぱんっ、と気持ちのいい音を立てて傘を開くと、武器を取り返してネルはこちらを見上げた。
「狭いけど、宿までなら我慢できるだろ?」
ひょい、とこちらに傘をさしかける。照れを思い切り押し隠そうとして失敗しているのがよくわかるその表情に、思わず息を飲む。・・・正直なところ、非常に可愛かった。思わず視線をそらす。
「・・・しょうがねぇな。貸せ。」
傘を取り上げて自分でさすと、右手にネルが入ったのを確認して歩き出す。
ふと、右手を握られた。ぎょっとして隣を見れば、自分の手を握ったネルがふい、と目をそらしたところだった。
「・・・・こっちの方が安定するから。」
「・・・そうか。」
それきり、目を合わせる事はできなかった。左半身は雨に濡れていたりするのだが、それより傘を握る自分の手が妙に汗ばんでいるような気がしてそればかり気に掛かる。原因は不明だ。
宿まではあまり距離はなかったはずなのだが、永く感じる。そして、それが続いて欲しい、とも・・・なぜか。
そう思ったところで、唐突に宿についてしまった。荷物をロビーまで運ぶと、今日の予定はお終いである。・・・そして、この時間も。
「今日はありがとう。世話かけたね。」
「全くだ。」
即答でそんな言葉が出てくる自分が憎らしかった。すたすたと宿の入り口まで戻ると、後ろから声がかかる。
「それじゃ、ね。」
振り返った先には、赤毛の女。
「もう会う事もないだろうけど。」
そう言うなら、きっとそうなのだろう。一つ頷いて、踵を返す。
踵を返して、・・・自分がとても焦っている事に気付いた。何に焦っているのか。多分背後の女にだ。
『もう会う事もない』
それはゴメンだと、感じた。
いやな予感に負けてもう一度振り返ると、ネルは既にいなくなり掛けていた。
何かにせっつかれるようにして、背を向けた彼女に手を伸ばす。届かない。もう片方の手も。赤い髪に指先が触れた。ネルがこちらを振り向く。
一瞬の後、彼女はこちらの腕の中に収まっていた。最初は恐る恐る・・・そして、力一杯抱きしめる。
もう、いなくならないように。
少しして、ネルの腕が自分の体に回ったのがわかった。
軽く背を叩くそれは、なんだか妙に心地よくて眠気を誘う。このまま時間が止まってもいいのに、そんな事すら思う。
唐突に目がさめた。あたりはまだ暗い。
腕の中には、ネルを抱きしめたままで、背中には確かに彼女の手が回っていて、ここはベッドの中だ。
・・・夢か・・・・。
盛大に脱力する。何だったんだアレは。
「・・・起きた?何か変な夢でも見てたのかい?」
今度こそ間違いなく本物のネルが、そう声を掛ける。
「・・・ああ・・・・。」
生返事だけして、目を閉じる。意識は覚醒しているのに妙に疲れていた。
夢の内容を妙に覚えている。それはいつもの悪夢ではない。・・・悪夢ではないが、ある意味悪夢の方がマシだった。
手を握っただけで照れるような次元は当の昔に飛び越している。というか、そんな記憶はない。
一緒になって買出しというのも、旅している間に慣れた日常茶飯事だし、そんなのに動揺するほうがどうかしている。
照れたように笑った顔は、・・・確かに可愛いが、自分が惚れたのはそんな事ではない。断じて。
それに、時間なんて止まらなくていい。時間が流れた先に、今の・・・夢より甘い現実がある。
夢の全てに内心でツッコミを入れる。色々なものが陳腐な事項に纏められた様で、気分が悪い。恥と自己嫌悪で頭痛すらする。何が自分にあんな訳のわからない夢を見せたのやら。もしも見せた奴がいるのなら、今すぐ叩き斬ってやりたいくらいだった。
・・・そんなものがいないということは、百も承知なのだが。
「・・・大丈夫かい?」
「・・・ああ。気にするな。」
息をつくと、少し落ち着く。
「それならいいんだけど。」
言いながら緩めた腕から抜け出そうとするのを抱きよせる。
「・・・あんまり大丈夫じゃなかったみたいだね?」
呆れ半分の目線に、小さく笑って答える。
「いや?」
単純に抱き枕に丁度良かっただけだ。そう言うと、ネルは小さく苦笑いして大人しく腕の中に戻ってきた。
敵だったはずが、いつ何がどうなってこうなったのか、細かい事はすっぱり忘れた。
ただ、一番最初だけはわかる。
格下だと思っていた相手が、追いすがるように強さを見せたあの時。彼女の身体全体から巻き起こる闘気は、まさしく戦場の華だった。他の誰にもない、あの気迫。その時の昂揚感。今でも思い出せる。
あの強さも、性格も、容姿も、時折みせる優しさも、今では全てが気に入っている。それも事実だ。
それでも、一番最初・・・間違いなく自分はアレに惚れたのだ。
もう一度、温かい“抱き枕”を抱きしめる。少しすると、ネルの腕がおずおずと回って、こちらの身体を包み込んだ。
鼓動を感じる。自分のものかそうでないのか、今ひとつ判然としない。でも、それが心地よかった。
目を閉じると、意識が落ちていくのを感じる。
今度は、深く眠れそうだった。
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