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ケチャップの赤にまで、微笑みかけたくなるみたい

アガット&ティータ。
お題『でかけよう』で書いてた未来妄想、きっとSC*年後の新婚さん(笑)
ここまで未来妄想が広がるとさすがに表には置きがたいので、別置。
BGMは「キッチンから愛をこめて」。実は結構前からあっためてたネタだったんですが、ちょっとこれは恥ずかしいよ、ねえ(苦笑)
なんかもう色々とすっとばして新婚さんです。新婚さんでも、これくらいラブラブでほのぼのーっとしてたらいいなあと。あと、アガットさんが照れてるのもいいよね!何て思ってたりします。
実はこのお題にとっかかって一番最初に埋めたのがコレでした。最初から螺子が飛んでたみたいです、ね(苦笑

夕暮れ時。どこの家からも美味しそうなにおいが漂ってくる時間。
その中一軒・・・夕日の差し込んでいるであろう窓から、幸せそうな歌声が聞こえてくる。

「あなたと わたしと そして笑顔たちが・・・」
歌声に合わせて、窓に掛かったカーテンもゆれていた。
歌声の主は金髪の娘。自分の歌に合わせて、慣れた手つきで鍋をかき回している。
「・・・・・・こんなとこかな?」
少し手を止めて、真剣な顔で鍋の中身をひとすくい。小皿に移されたスープは、朱金の色をしていた。こく、と一口飲んで、また真剣な顔で鍋の中身を見る。
「・・・もうちょっと辛い方が好きかなあ?」
胡椒のビンを一振り、二振り。そしてもう一度鍋の中身を味見してみる。
「ん、上出来。」
会心の笑顔で火を止める。振り返った先には、たくさんの料理が並んでいた。
買ってきたばかりのパン、サラダ、煮物、揚げ物、焼き物。今作ったばかりのスープと、棚にあるオレンジでデザートまで完璧に揃っている。作成者の気合を感じる料理だった。
「早く帰ってこないかな。」
戸口の方をそわそわと見やって、彼女・・・ティータは嬉しそうにつぶやいた。
待ち人は、うれしはずかし旦那さまだった。鮮やかな赤い髪で、長身で無愛想なようで優しくてかっこよくて、不器用なとこもあるけどとっても頼りになる・・・。
「アガットさん。もう帰ってくるんですよね?」
視線は料理経由でまた戸口に戻る。嬉しそうな笑顔は抑えようとしてもこぼれるばかりで困ってしまう。
遊撃士の仕事で一週間ほど家を空けていた彼が、本日帰宅予定なのだ。

がたん。
戸口の方で音がした。
「はいっ」
続くノックの音。ティータはウサギもびっくりするほど敏捷に走っていく。
鍵を開けると、大好きな彼が少しびっくりしたように立っていた。思い切り見上げないと視線が合わないほどの長身のアガットに、ティータは思い切り飛びつく。
「おう、なんだ、早かったな。」
動じもせず慣れた感じで受け止めてくれる。相変わらずがっしりした腕のなかは安心できた。
「えへへ。おかえりなさい、アガットさん。」
ぎゅっと抱きしめて見上げると、前よりかなり穏やかになった声が降ってくる。
「ただいま、ティータ。」
軽く頭の上を跳ねる大きな手が気持ちよかった。
「ご飯できてますよ。それともお風呂先にしますか?」
「そーだな・・・」
声と共に、アガットの目線はテーブルの上に行く。
「おー・・・豪勢だな。」
びっくりしたような声に嬉しくなった。
「えへへ、ちょっとがんばっちゃいました。」
抱きしめっぱなしの手を緩めて、ティータの目線もテーブルの上に行く。
自信作だった。1週間ぶりだから、思い切り気合が入ったのだ。
「なら、まずは飯からにするか。見てたら腹減ってきた。」
「はいっ。」
ティータはぱたぱたとテーブルの仕上げにかかる。
「おいおい、そんな慌てるなっての」
やれやれ、と苦笑いしながら、アガットはもっていた荷物を下ろしたのだった。


そして翌朝。


「あなたと わたしと そして笑顔たちが・・・」
ひそやかな歌声に合わせて、窓に掛かったカーテンもゆれていた。朝日もちらちらと踊っている。
歌声の主はティータ。自分の歌に合わせて、慣れた手つきでスープをかき回しているその姿は、昨日の夕刻と余り変わらない。
しかし、本日の彼女は昨日以上にご機嫌だった。
「今日はー、昨日のスープと、パンとコーヒーと・・・サラダとオムレツ・・・くらいでいいかな?」
まだ寝こけているアガットのことを思うと、なんだかにやけてしまう。

昨日の夜、料理を嬉しそうに食べていて。スープ美味しいってほめてくれたっけ。お風呂に入る前にうとうとしだしてて、慌てて起こしたっけ。疲れてたんだよね。お風呂入ったら少し目さめたみたいだったけど、結局すぐにベッドで転がっちゃったの、なんか子供みたいで可愛かったかも。でも、ベッドに転がり込んだら、ぎゅってしてくれて、そして・・・

思い出すだけで幸せいっぱい夢いっぱいである。自分でもおかしいくらいだが、それでも笑顔は止まらない。
きゃーっ、とじたばたしながら塩を振って・・・はた、と気がつく。
なぜ自分は暖めなおしのスープに塩をふっていたのか。笑顔が凍りついた。

おそるおそるスープを味見してみると、はたして。ティータの予想通りの味がした。
・・・・・・・・・・塩、入れすぎちゃった・・・・・・。昨日、ほめてくれてたスープなのに。
捨てるのは忍びない。でも塩辛い。
思考10秒、目に入ったのは、アガットの髪と同じ色の缶詰だった。すなわちトマト缶である。


30分後。
「おはよーございます。朝ごはんできてますよ。」
「ん・・・ああ、おはよう」
家だからなのか、半寝ぼけのアガットに声を掛けると、ティータはテーブルの上に朝食を並べ始めた。
顔を洗ってきたアガットが席に着くと、短い挨拶と共に朝食が始まる。
「・・・そういえば、昨日のあのうまいスープ、残ってるから朝出すとか言ってなかったか?」
パンをかじりながら、アガットがふと思い出したように言った。
「ごめんなさい。・・・ええ、と。残ってたんですけど、ちょっと・・・暖める時に失敗しちゃって。」
ティータの指はオムレツの上に掛かった、朝食の割りに手の込んだソースを指差す。
「ソースにしちゃいました。」
トマト風味の真っ赤なソース。味は先程見たところによれば、少なくともスープよりははるかにマシだった。
「へえ、器用だな。・・・・うん、うまい。」
オムレツを齧ってそう言う。
「だが・・・スープ温めるのに失敗なんてあるのか?お前にしちゃ珍しいな。」
アガットの表情は間違っても責めては居ない。純粋に疑問なだけである。それは見れば判る。
「間違えてお塩いれちゃったんです。」
「?」
ティータは自分のフォークに刺したトマトを、いぶかしげに開いたアガットの口に放り込んだ。
「・・・!?」
「昨日のキスが甘すぎたから、ってことにしといてくれませんか?」
「!!」
盛大にトマトをのどに詰まらせそうになったアガットに、心の中でごめんなさい、と思いつつ、ティータはアガットの広い背中をさすりに駆け寄った。
やっと落ち着いたアガットの顔は赤い。
「ったく・・・いきなり何てこと言いやがる・・・・」
「えへへ。」
照れた笑顔を見られるのがちょっと恥ずかしくて、ティータはアガットの背中に背を向けた。
「こら。」
横頭に軽い裏拳が飛んでくる。
「さっさと朝食終わらせるぞ。冷えるだろが。」
まだ少し赤みの残った耳が見えた。
「あ、はい。」
くすくすとした笑いをかみ殺して、席に戻る。

幸せな日々は、まだ始まったばかりだった。
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